2012年の年頭挨拶
日付:2012年1月2日 場所:世宗(セジョン)文化会館
「市民の心の拠り所になります」 市民が中心となるソウル市政、共に作り共に享受するソウル市
親愛なるソウル市民の皆様、そして、ソウル市の職員の皆様、2012年壬辰の年、明けましておめでとうございます。天高く昇っていく黒竜の気運にあやかり、市民の皆様のご健康をお祈り申し上げますと共に、皆様の希望がかなう一年になりますよう祈念いたします。
昨年は、韓国社会にとって大変厳しい一年でした。まるで開発時代にさかのぼったかのように成長だけを追い求める歪んだ政策の下で、世の中は勝ち組を中心に動き、格差社会が深刻化した結果、閉塞感が漂う一年となりました。
その中でも歴史の歯車は回り続けています。「勝ち組だけが生き残る世の中はもうごめんだ!」「そういう世の中は結局皆を負け組にするだけなので、これからは私たち皆が一丸となって共に生きていける世の中をつくろう!」これが、補欠選挙の際に浮き彫りになった市民の熱い思いであり、時代が求める確固たる精神です。自分に与えられた使命でもあります。就任してわずか2ヶ月で迎える新年です。ソウルという巨大な船の針路を時代の精神に合わせて正していくには、この2ヶ月という時間ではとても足りません。10年近く見せかけだけの海図に頼りすぎて航海し続けてきた船だからなおさらです。
しかし、ソウル市の職員の皆様のご労苦と市議会のご協力で、針路変更のための準備は終えたと思います。まず、環境配慮型給食(環境に優しい食材で作る給食)の無償化を妨げていた足かせを取り除き、ソウル市立大学の授業料半額化で教育革新の扉を開きました。市長室を開放し、現場に出向いて市民とのコミュニケーションの間口を広げました。2012年の予算を全面的に見直し、見せ掛けのためのバラマキ型事業、土木建築事業への予算は排除し、福祉と安全分野の予算を増やしました。ソウル市の組織も福祉、安全、雇用中心に再編しました。大がかりな人事異動を行い、ソウル市庁と各区役所に新しい風を吹き込みました。車の両輪のように連携が必要な市議会との混迷を続けていた関係も正常化しました。
市民の皆様、そしてソウル市の職員の皆様、このような準備を基に今年は「市民を中心とするソウル市政」、「共に作り、共に享受するソウル」を本格的に切り開く最初の年になると思います。
政治や経済が置かれた現実と各種指標を見ると、今年も市民と市庁の台所事情は依然として厳しいものになる見通しです。庶民の生活がよくなる景気回復の兆しは見えず、社会の二極化に伴う対立と歪みもそう簡単には消えないでしょう。生活の困難は誰もが抱える問題でありますが、その中でも特に社会的弱者にかかる負担はより大きくなります。
「デザイン・ソウル」という派手なスローガンの裏には、苦しみを余儀なくなれるたくさんの人たちがいます。その一面を私はクリスマス直前の二日間、徹夜で現場を歩き回りながら目にしました。そこには、母親とともにモーテルでの生活を余儀なくされながら、学校に通っている子どもたちがいました。ホームレスになる寸前で、一坪にも満たない考試院(コシウォン、本来は学生が試験勉強をするための部屋を指すが、最近では勉強目的ではなくても入居可能となっている)と呼ばれる部屋での生活を余儀なくされる人もいました。考試院という不安定な環境で暮らしているソウル市民は約60万人にも上ります。病気を抱えたまま、古紙を拾い集めて生活しているお婆さんもいました。このお婆さんは寒さの中でお孫さんと共に電気毛布一枚に頼って冬を凌いでいます。それすらもニュータウン再生事業が進んだら失ってしまうかもしれません。もしそうなると、お婆さんの体調が悪い時に、代わりに古紙や空き缶を集めてくれたり、家の前にそっと牛乳一パックを置いておいてくれる、優しい近所の人さえも共に消えてしまうでしょう。いったい、そのお婆さんはどこへ行けば良いのでしょうか。モーテルで生活している子どもたちはどこに希望を見出すのでしょうか。そもそも、ニュータウン再生事業は誰のためのものなのでしょうか。
尊敬する市民の皆様、そしてソウル市の職員の皆様、政府があって市役所がある理由は、小さな力ではあっても大切な人たちの生活を心配し、守り、助けるためです。しかし、韓国の政府と市役所は成長だけにこだわりすぎたり、あるいは「デザイン」や「ルネサンス」、「開発」に目がくらみ、一般の人たちの生活や日常生活の大切さを見失ってしまいました。そうしているうちに、ソウル市は彼らのささやかながら大切な生活を奪っていく都市と化しつつあります。私は、こんな都市が怖くてたまりません。その怖さはどんどん広がります。ソウルは社会的弱者を苦しめるだけでなく、中間階層の人たちの生活基盤まで揺るがしてしまいました。痛みを知り、それが怖いと思うなら、直すために行動しなければなりません。希望を見つけなければなりません。いや、自ら生み出さねばなりません。それが、ソウルという同じ空の下で暮らしている私たち皆がすべきことであり、政府とソウル市が果たすべき任務なのです。
しかし、政府とソウル市が虚像に目を奪われている間に、厳しい生活を余儀なくされる人たちを守ってくれたのは、ほかならぬ市民たちでした。80歳を過ぎても、毎日欠かさず、恵まれない人たちにお弁当を届けるお婆さん、自分自身も人の親であり、一家を支える大黒柱であるはずなのに、自分のことよりもっと厳しい生活を余儀なくされる近所の人たちのために、ささやかな救いの手を差し伸べる人、冬休みに入って給食を食べられない子どもたちに、食事を提供する近所の飲食店のオーナー、こうした人たちこそ、官公庁がよそ見をしている間に、ソウルとソウル市民を守ってくれた本当のヒーローです。私はその中で一筋の希望の光を見ました。まさにここに「人が中心となるソウル市政」、「共に作り、共に享受するソウル」の姿を見つけました。
「人が中心となるソウル市政」において、市民は顧客ではなく市役所は企業ではありません。市民はPRマーケティングの対象ではありません。主権者なのです。誰かに従わせられたり、教えられたり、また制限されたりする、施しの対象ではなく、福祉を享受する権利を持つ、市政の主体です。ソウル市政が追求すべきものは効率、創造、デザイン、ルネサンスではありません。これらは目的ではなく、手段です。市政が本当に追求すべきなのは、市民一人ひとりの幸せと平和です。育ち盛りの子どもたちや学生、子育てに苦しむ母親、就職活動にいそしむ若者、老後を心配する中高年など、彼ら皆の生活を支えることに市役所が存在する理由があります。一言でいえば、人が中心となるソウル市政は、厳しい生活を余儀なくされる市民たちのための憩いの場、拠り所にならなければなりません。
さらに、そうした憩いの場は、市役所だけでは意味がなく、市民と共に作っていくべきです。そうしてはじめて、共に享受することができるのです。2012年、我々はこのように人が中心となるソウル市政を始めます。共に作り上げていく市政には、もちろん利害の衝突や対立も生じるはずです。晴れた日は雨具屋さんが泣き、雨の日は陶器屋さんが泣くといわれます。公共の場での喫煙問題、ソウル市庁前のスケート場設置などの問題でも利害がぶつかり、対立が生じてくるものです。
対立を調整、予防、緩和することこそが、市役所の任務です。かつては目の前の成果にこだわり、対立を生むことを承知の上で、ニュータウンや再開発の事業をむやみに推進していました。我々は二度とそんなことを繰り返しません。しかし、様々な問題が複雑に絡みあっている再開発事業やニュータウン事業を巡る利害や対立を解決しなければならない課題を抱えています。かなり難しいことだと思いますが、一緒に悩み、一緒に話し合って必ず解決策を見出せるよう努力します。
もうすぐ3カ年計画について発表する機会があるかと思いますので、本日この場では2012年に着手する幾つかの重点課題についてお話させていただくことで、市政計画の話に代えさせていただきたいと思います。
2012年における市政の重点目標は、人と福祉が中心となる新しい市政を進めることです。そのためには、市民なら誰もが享受できる権利として、ソウル市民の福祉基準の目安を市民と共につくり上げていきます。支援が行き届きにくい貧困層の人たちの生計支援を強化する一方で、公共賃貸住宅8万戸を供給することで住居に対する市民の不安を解消し、公共保育のインフラを拡大して育児の負担を減らすよう後押しします。また、大学生の授業料負担を軽減するなど、教育費の負担がかからない教育環境を整え、社会的企業の未来成長エンジンを確保し、若者から高齢者に至るまで、持続可能な良質の雇用を提供することに尽力します。同時に、家計の負債に苦しむ各家庭を助ける実質的な対策を模索します。災害から安全な都市づくりに向けて、まず子どもや高齢者などの社会的弱者向けに安心安全を確保するサービスの拡大や、分散型雨水管理システムの構築を通じて、災害の事前予防に重点を置くようにします。また、社会的配慮に欠けた開発で消えつつある共同体の価値を取り戻すために、ソウル市の町共同体支援センターを立ち上げ、多様な支援プログラムを採用し、町共同体の育成に取り組みます。
尊敬するソウル市民の皆様、そしてソウル市の職員の皆様、今年は総選挙と大統領選という二つの大きな政治に関するスケジュールが決まっています。社会的亀裂が深まりかねない状況です。しかし、揺ぎ無い姿勢でソウル市政を守っていきます。中央政府ともお互い積極的に支え合いながら、取り組んでまいります。新しく構成される国会とも緊密に協力してまいります。真の地方分権時代にふさわしい法律の見直しも強く求められているからです。
全国が一つの経済圏で結ばれた現在、ソウルは島でもありませんし、ソウルだけの発展もありえません。首都圏の広域的な協力関係を強化し、地方との均衡の取れた発展を成し遂げるためにも積極的に取り組みたいと思います。ギクシャクしている南北関係や予測できない北朝鮮情勢も、ソウルのバランスの取れた発展だけでなく、ソウル市民の暮らしに直結している問題です。もちろん、地方自治体の域を超える問題ではありますが、小さなことでも緊張をほぐし、平和を実現するのに役に立つなら、ソウル市レベルでも取り組みたいと思います。そういう点で、ソウル平壌サッカー大会やソウル市立交響楽団の平壌公演を、韓国の統一部(省)と北朝鮮当局に提案したいと思います。
尊敬するソウル市民の皆様、そして、ソウル市の職員の皆様、ソウル市を市民の心を癒せる拠り所にすることは、決して簡単なことではありません。長い間、ソウル市政の中心に人はいませんでした。だからこそ、針路変更には幾多の難関が待ち受けていると思います。
しかし、私はこのことを一瞬たりとも諦めたりはしません。そうするつもりもございませんし、もしそうしたいと思っていてもできるはずがありません。これは、時代が求める流れに従うことであり、歴史の歯車が向かっている道でもあるからです。
ソウル市の職員の皆様、最近、皆様は長い間苦楽を共にしてこられた優秀な仲間たちと別れるという悲しいことを経験しました。私もやはり心が痛みました。しかし、そのような方々の犠牲があったからこそ、新しく構成されたソウル市の組織に新たな風を吹き込み、活力を与えることができることと確信いたします。皆様は、私の人生の中で出会えた最高の同僚であり、市役所を生まれ変わらせる歴史的な使命を一緒に全うする仲間です。私はソウル市の職員の皆様を信じます。
親愛なるソウル市民の皆様、厳しい環境の中でも苦しい日常の中でも、それぞれの大切な生活を見事に営んでこられた全ての方々に深く敬意を表します。皆様こそがソウル市政の主役であり、存在する理由です。皆様が辛くて心が折れそうになったとき、心を癒せる場として、ソウル市が生まれ変わるよう常に目を配り、また力になってください。皆様の参加があってはじめて、市民が中心となるソウル市政、共に作り共に享受するソウル市を作ることができるはずです。
ソウル市民の皆様、そしてソウル市の職員の皆様、2012年新年を迎え、改めて皆様のご多幸とご健康をお祈り申し上げます。そのために私、朴元淳は最後まで汗を流すことを厭わず全力を尽くすことをお約束します。