就任1周年の記念挨拶
日付:2012年10月24日
就任1周年を迎えて 市民の皆様のおかげです。
親愛なるソウル市民の皆様、こんにちは!ソウル特別市長、朴元淳でございます。私が市長に就任してから1年が経ちました。本当に短いようで長く、長いようで短い時間でした。
今年に入ってから私は後漢書の皇甫規伝に出てくる「水能載舟亦能覆舟」という言葉をずっと胸に刻んでそれを心がけています。水は舟を浮かべることができるが、一方で舟をひっくり返すこともできるという意味です。時代を超えて「民意の力」の大切さを悟らせてくれる言葉です。
一年前にソウル市長に就任した際、私は「ソウルという大きな船の船長は市民の皆様です」とお話しました。私はこの言葉を自ら証明して実現するためにこの1年間、最善を尽くしました。「市民中心」「現場とのコミュニケーション」はまさに「朴元淳号」が導くソウル市政を特徴付ける最高のブランドであり、最高のキーワードでした。
私は就任後、三つの重点公約を最初に実現しました。これは「まず、私たちの生活を守ってくれ」という市民の「命令」があったからです。その命令は「私の人生を変える初めての市長」という私の選挙スローガンとも合致したからです。実は、普遍的な福祉への市民の皆様の熱い思いに突き動かされ、私は前面に立つことを決心したのです。崩れ落ちる生活基盤を立て直し、頼れる拠り所を作ってほしいという市民の皆様の切実な思いがあったからこそ、私が韓国の首都ソウルを守る「番人」になれたのではないかと思います。
そうしてまず、就任初日に59万人の子どもたちに環境配慮型給食(環境に優しい食材で作る給食)の無償提供を実施しました。体にやさしい食べ物を安定的に供給するために「広域の環境配慮型給食統合支援センター」を立ち上げました。この無償給食の実施は、長期的には都市と農村間の交流拡大につながり、ひいては子どもたちの食育にも貢献すると思います。
二番目に、市立大の授業料半額化を実施しました。これは、授業料100万ウォン台を可能にし、その中には授業料0ウォンの請求書もあり、話題になりました。これは韓国社会全体に大きな影響を与えました。現在の大統領選立候補者らはこの問題を重要な政策として取り扱っています。市立大の学生の生活も変わりました。奨学金貸付申請者が40%以上減り、ボランティア活動への参加者が約二倍も増えました。授業料の半額化実施は入学制度の改善にもつながっています。新しい入試の要綱の確立で、競争中心の人材選抜ではない、共に生きていく社会に貢献できる創造力豊かな若者を育成します。
三番目に、非正規労働者の正社員化を始めました。1,133人の人が喜びに満面の笑みや嬉し涙を浮かべたことは、今でも脳裏に焼きついています。こうした正社員への転換は引き続き拡大していきたいと思います。現在、市の間接雇用労働者の雇用安定と待遇改善策について委託研究を行っております。この研究の結果を年内に発表する予定です。これには市と共に働く民間部門として、雇用安定性を拡大できる策も含まれます。市民の皆様、労働環境の安定は、市民が幸せになる上での土台となるものです。さらに、内需促進と庶民経済活性化の根幹でもあります。何よりも、大事な市民権を確保することにおいて、決して譲ることのできない第一の条件です。
一年前、私がソウル市長に当選したことは、新たな政治革新だと言われました。「市民寄りの市長」の登場という意味から、世間の注目を集めました。しかし、それは今の時代が作った現象の一部に過ぎなかったのです。ここ一年、ソウル市政の本質は「行政の革新」にありました。
第一に、行政の革新は「現場主義行政」によって遂げられました。現場中心の行政を行うためにこの一年間、私とソウル市の職員は渾身の力を振り絞って努力しました。机上で行われるだけの行政、縦割り行政から抜け出そうということを、ただのスローガンに終わらせないよう頑張りました。「聴策(市民の意見に耳を傾け、それを政策に反映すること)ワークショップ」を通じて現場の声に耳を傾け、反対意見など様々な意見をもった専門家の方々にも出席いただき、最後まで活発な討論で盛り上がる有意義な時間となりました。このように、市民と専門家グループ、ソウル市の行政が協治、即ちガバナンス体制の構築を成し遂げました。これまで、合計39回にわたって行われた「聴策ワークショップ」で約5,200人の市民にお会いすることができました。
「ソウル市報勲(国のために尽くした者の功績を称え、報いること)総合計画」も、現場主義の行政を行う過程の結果として打ち出されたものです。6月6日顕忠日(戦没者追悼の記念日)の顕忠院(ヒョンチュンウォン)参拝に続き、独立有功者(国の独立のために献身した人)とベトナム戦争に参加された元兵士の自宅を訪れました。そこでその人たちの声を直接耳にして「我々がこうした方々の生活を守ることができないとしたら、誰が国と公共のために献身できるのだろうか」という思いを新たにしました。その後、様々な報勲団体の方々と話し合い、ソウル市政において初めてソウル市公務員の幹部が報勲団体の事務室を訪れました。こうして、ささやかながらもそうした方々の献身に報いる方法を見出すことができました。
ソウル市の政策はほとんどの場合、このような過程を経て行われます。やはり、現場の声を聞かなかったら不可能だったはずの政策です。「障害者・希望ソウル総合計画」も、ソウル市の公共医療政策である「健康36.5」も、そして「ソウル市民の福祉基準の目安」「共有都市、ソウル」も同じです。何より「ニュータウン出口戦略」は現場の声と多様な意見を集約、取りまとめなかったらできなかったはずです。
私は、自分を支持してくださった市民の市長でもありますが、支持していない方々の市長でもあります。市政の中心軸は、左翼と右翼の対決、貧富の差、地域の格差、世代間のギャップなどをバランスよく調整できる「釣合い重り」になる必要があると思います。調和をなすための調整、それこそが行政の力ではないでしょうか。
第二に、行政の革新は「開かれた行政」で可能になりました。IT技術の発達で「開かれた市政2.0」の実現が可能になりました。「情報疎通広場」の設立でソウル市の公共データを市民の皆様と共有できるようにしました。情報こそが資産です。市民の皆様が求める前に、積極的に共有された行政関連情報は新しい付加価値を生み出すことと期待しています。それだけでなく「史官制度」を設け、市長が日常的に行う行政をきめ細かく記録し、行政の全ての過程を記録として残すための事業別白書を発行することにしました。また、政策の実名制を運営しており、さらには、インターネット放送である「ライブソウル・ライブウォンスン」を通じて、市長室まで市民の皆様と共有しております。これら全ての過程は、市政の合理性と透明性の確保につながると思います。
第三に、新しい情報伝達システムを活用した行政革新を成し遂げつつあります。「ツイッター行政」です。SNSによる行政が世界で初めて実現しました。今年7月には鍾岩洞(チョンアムドン)崇礼(スンレ)小学校前の歩道に設置されていた衣類回収ボックスが通学路における子どもの安全を脅かすと、ある若いお母さんが送ってくださったツイッターのメンションが、担当の室と局へ伝えられ、すぐに解決しました。「政治や行政には全く関心がなかった自分にとって、本当に大きな感動でした」とそのお母さんからの嬉しい言葉は、ソウル市政を行う上で大きなやりがいになりました。
このように、ツイッターだけでなく全てのニューメディアによって寄せられる市民からの苦情を一括で処理し、その結果を隠さず公開するSMC(ソーシャルメディアセンター)が設置される予定です。ソウル市の行政革新は、一歩ずつ進歩を遂げていくと思います。位置基盤、増強現実、音声認識など、新しい技術の変化をすぐに行政と結びつけることで、災害への備えや危機管理対応システムの基盤ができるでしょう。それだけではありません。ソウル市の室や局の長の皆様とも、モバイルコミュニティである「ソウル宝物倉庫」を立ち上げました。その中で数多くの提案と意見が自由に交わされ、お互いへの励ましや応援の声が次々と寄せられています。協業も自然に行われております。それはおそらく、机上で行われるだけの行政と縦割り行政の弊害をなくす上で、最も大きな効果をもたらす行政革新ではないかと思います。
これら全ての行政革新もやはり、市民の皆様のおかげです。「革新しなさい、まずは市民の生活に目を向けなさい」という時代のニーズが、ソウル市政を革新の道へ導きました。こうした行政における革新によって市民の「参加型行政」は、その方法がより具体化しつつあります。市民の皆様こそが政策の設計者になったといえます。来年度のソウル市予算の中で500億ウォンは「住民参加予算」として執行されます。ソウル市の将来像を盛り込む都市計画「ソウル2030」も「ソウルプラン市民参加団」が共に描いてくださいました。ハード中心の都市計画に、市民の生活の計画が加わったのです。
そしてこの一年、我々は福祉、安全、雇用の三つの目標に向かって、市民の皆様の力で、市民の皆様と共に歩んできました。市民の生活に具体的に役立つこと、市民の皆様に実質的に力になることに市の人材と予算を投資しました。市民の皆様の知恵を集めました。
第一に「ソウル市民の福祉基準の目安」を発表しました。これは自治体初の市民のための福祉基準の目安で、ソウル市民の福祉憲章としての役割を果たせると思います。所得、住居、介護・ケア、健康、教育を中心に韓国社会の普遍的な福祉を実現していく上での呼び水になると思います。市民の皆様は、今の時代における最高の先行投資は、人への投資だということを理解してくださいました。市民の皆様のおかげで実現した「ソウル市民の福祉基準の目安」。最善を尽くして育てていきます。
第二に、市民の生活における安全を守ることが、都市の安全を守ることにつながります。我々は都市安全の基礎を整えました。「災害及び安全管理基本条例」を制定し、市民中心の災害管理体系を構築しました。コミュニティ・マッピングを実行させ、携帯メールなどによる土砂崩れの予報を知らせるなど、予報・警報体制を構築し、都市の安全確保における市民参加の間口を広げました。特に、災害への備え関連予算は7,588億ウォンと、前年比で2,795億ウォンの予算が追加執行されました。どんなに頑張っても全ての災害を防ぐことは不可能であり、安全な都市づくりには多くの時間や財源が必要ですが、市民の皆様の安全が都市が存在する第一の理由だということを肝に銘じております。
第三に、安定した雇用こそ市民が幸福になるための基盤です。今年5月、非正規労働者の正社員化が始まりました。それに加えて、これからは持続可能な良質の雇用創出により、希望に満ちた経済の活性化を実現するよう取り組みます。国内外における先行きへの見通しが不透明である上、これまでの諸事情も決して良いものではありませんでした。雇用創出に向けて最善を尽くしてきたつもりですが、残念なところが多いのも事実です。しかし、ここで立ち止まることはしません。企業と大学間の人材連携システムを通じて、それぞれのニーズに合わせた人材養成プログラムを運営し、若者たちの夢がかなう「青年雇用のハブ」をつくります。また、共有と連携による社会的経済の実現を通じて良質の雇用を生み出していきます。あらゆる手立てを講じて零細商人を守り、昔ながらの市場や商店街を元気にするために手を尽くします。観光とエンターテイメント産業、MICE(Meetings, Incentives, Conventions and Exhibitions)産業の拡大を通じて、ソウルの成長エンジンを強化してまいります。
尊敬するソウル市民の皆様、皆様のおかげで我々は多くのことを成し遂げることができました。公共賃貸住宅を着実に供給し、債務削減のためにも努めています。ソウル市では公共賃貸住宅を、2012年の目標18,516戸から、9月現在、1万6千戸をさらに供給し、合計4万戸の公共賃貸住宅供給を実現させました。同時に、ソウル市と関連投資機関は、債務削減に向けて最善の努力を尽くしています。 しかし、ここ一年間、挫折し絶望することもありました。間違った政策を見直す作業は本当に難しく、大変な労力がかかりました。特に、20兆ウォンにも達する債務額に対しては、私は自分の知恵の限界を感じ、自分自身を責めたりもしました。長引く不況や税収減少、まだまだ制限が多い地方分権による限界と、そこからくる悔しさや無念さはもはや日常的なことになってしまいました。なすべき事は多く、したいことも多いですが、現実の壁にぶつかり、もどかしさもありました。
しかし、振り返ってみますと、その過程においてぶつかるあらゆるハードルは、スピードの出しすぎを防ぐ役割を担ってくれました。ゆっくりではあるものの、最後まで行政の革新を成し遂げ、市民一人ひとりの幸福度を高めてまいります。また、その過程において直面する危機の瞬間を市民の皆様のおかげで、うまく乗り越えることができました。皆様の支えと励ましによって「市民の利益」と「ソウルの未来」という二つの基準で、そして常識と合理という観点から、あらゆることに対応することができました。市民の皆様、本当にありがとうございました。
私は再び現場に戻ります。今年11月1日に、恩平(ウンピョン)ニュータウンに市長室を臨時に移動させます。そこで、SH公社が建てた売れ残りのマンションをどう処理できるか、また入居者のためには、どうすればよりよい生活環境を整えることができるのかについて考えます。その答えを出すために熟慮を重ねます。この問題だけでありません。これまでもそうだったように、これからも様々な市民生活にかかわる懸案や、伝統市場、若年失業、高齢者の孤立問題、保育問題などについて自ら現場を歩き回りながら、答えと解決策を見出すために市長室を移す「移動市長室」を行います。
私がソウル市長になってもう一年となりますが、この場をお借りして感謝と尊敬の意を込めてお礼を申し上げたい方がいます。それは、ソウル市の職員の方々です。皆様がどれだけ献身され、苦労されてきたのか、私はよくわかっています。私のような細かくてうるさいリーダーの下で、よくも我慢し、与えられた任務を責任をもって遂行してくださいました。皆様のような良き仲間に出会えたのは、私の人生において大切な宝物といえます。
親愛なるソウル市民の皆様、私にはいつも支えになってくださる皆様がいます。合計3,430人の方の名前がここに書かれています。全てソウル市政に参加してくださった方です。1日市民市長、名誉副市長、聴策ワークショップに参加された市民の方々、ウォンスンさんのソウル物語に出演された市民の方々、市民作家の方々、希望の種プロジェクトに参加された市民の方々、私のツイッターに意見を送ってくださった方々など。そのほかにもたくさんいらっしゃるはずです。ソウル市の幸せは、全て市民の皆様のおかげです。
市民の皆様、私たちは皆それぞれ違う音を出す楽器です。しかし、我々は壮絶な演奏をする一つの大きなオーケストラです。弛まず参加し続け、忌憚なく指摘してください。私もソウルというオーケストラをうまく指揮するよう頑張ります。本日、この一年を振り返ってみましたが、私はこれからの一年を楽しみにしております。我々がどんな美しい音色を奏でるのかが楽しみです。希望と喜びにあふれる毎日、最善を尽くす毎日になるよう努力します。ひとえに市民の皆様のおかげです。市民こそ市長です。ご清聴、ありがとうございました。