韓国はコーヒーよりも「お茶(tea)」の歴史が長い。それは、至極当然なことであろう。数千年の歴史を中国とともに綴り、文化交流を続けてた韓国は、茶の発祥国である中国の茶の文化をを受け入れ、それを独自の文化として発展させてきた。一方、コーヒーが伝わったのは朝鮮時代末のコジョン(高宗)の時代で、歴史はまだ浅いといえるだろう。
それにもかかわらず、ソウルの街では大きな変化が起きている。カフェ通りができ、コーヒーの種類が多様化し、新しいコーヒー文化が生まれつつあるのだ。韓国人はコーヒーの文化を韓国風にアレンジし、発展させ、新しい文化を形成しようとしている。まさに先人たちが中国の茶をそのまま受け入れなかったように。
ソウルの所々にあるのは「スターバックス」そのものだけではない。スターバックスによるコーヒーの文化、つまりコーヒーを飲みながら本を読み、音楽を聴き、自分だけの時間を過ごす文化だ。では、ソウルのカフェはどんな文化を形成し、私たちに何を提供しようとしているのだろうか。
若者と夢、芸術とアンダーグラウンド文化、個性あふれる自由の街「ホンデ」とは対照的に素朴でこぢんまりとした街、「キョンイソン(京義線)森の道」沿いのヨンナムドンには個性的な異色のカフェがある。不思議なのは、ホンデからそれほど離れていない場所にこうした閑静なカフェ街があるということだ。
様々なコンセプトを用いた特色のあるユニークなカフェが建ち並ぶヨンナムドンのカフェ街。花をテーマにしたカフェは、華やかな花、地味な花、爽やかな花が店内いっぱいに飾られている。しかもガラス張りの構造で、ちょうどこの季節はどこまでも青い秋空を眺めながらコーヒーを飲み、ゆったりと贅沢なひとときを過ごすことができる。
街の奥のほうにはユニークがカフェが建ち並んでいる。チェーン系カフェでは感じることのできない雰囲気がある。例えば、住宅をリフォームしたカフェ。まるで自宅の庭にいるようで、日差しを浴びながらコーヒーを飲んでいると、心が落ち着き、感謝の気持ちが湧いてくる。
それだけではない。ギリシャ風のカフェやマルタ島のカフェ、日本の様々な街をコンセプトにしたカフェなどバラエティに富んでいる。めずらしい小物と絵が店内いっぱいに飾られたカフェはとてもエキゾチックだ。食材を特徴としたカフェもある。特に、豆腐ブラウニーや豆腐だけで作ったブランチを提供したり、スコーンを提供したりといった異色のカフェが多く入っている建物もある。こうしたカフェは、西洋のものを韓国風にアレンジし、ひと味違う趣と楽しさを与えてくれている。
キョンボックン(景福宮)駅周辺を歩くたびに、韓国らしさのすべてがここに集約されていると感じる。カフェも古宮と調和した韓国風のものばかりだ。韓屋をリフォームしたカフェは、ここが韓国であることを実感させてくれるとともに、昔にタイムスリップしたかのような感覚を覚えさせてくれる。
コーヒーだけでなく、ナツメ茶や高麗人参茶、生姜茶など韓国を代表するいろいろなお茶を味わうこともできる。お茶の不思議な風味が心を落ち着かせてくれる。韓屋で飲むお茶には、奥ゆかしい味わいがある。韓国産の小豆を使ったパッピンス(韓国式かき氷)や小豆粥、熟柿などは、他のどんなスイーツにも負けないほど美味しく、一度食べたら病みつきになる。その魅力が旅行者を惹きつける。
コーヒーを飲みながら音楽を聴き、本を読み、スイーツを食べるのがカフェなら、ブックカフェは本を読むことにフォーカスを合わせたカフェである。店内に足を踏み入れると、どの空間も本だらけ。ブックカフェでは、かつてのパリのカフェのように朗読会や討論会が開かれる。討論に参加しなくても、他の人の考えを聞いてみるのも良いもの。人それぞれ自分とは違ういろいろな考えを持っていることを改めて感じることができる。
韓国人は、盲目的に西洋の文化を取り入れ、真似ようとしているのではない。ソウルの街の所々でそれが証明されている。疲れたときは足を止め、カフェにしばし腰掛けて一休みしている。そして、一日の始まりにコーヒーを飲んで元気をつけ、一日の締めくくりにコーヒーを飲んで気持ちをリラックスさせる。それが韓国のカフェ文化である。