格差と不平等を解消するためのソウル市の代表的な「弱者同行」政策であり、所得保障福祉のパイロット事業である「踏み石所得(旧・安心所得)」を全国的に拡大するための整合性研究結果が発表された。研究開始からわずか1年での発表だ。呉世勲(オ・セフン)ソウル市長は、「踏み石所得」が描くK-福祉のビジョンについても直接言及した。
2022年に開始され、今年で3年目を迎えた「踏み石所得」は、中間所得の85%以下(資産3億2,600万ウォン以下)の世帯を対象に、基準所得に対して不足する家計所得の一定部分を補填する制度だ。所得が少ないほど支援額が増える形態で、所得や資産の基準のみで参加世帯を選定するため、制度の盲点に置かれた低所得世帯にも十分な支援が行き届く。また、所得基準を超えても給付資格が維持されるのが特徴だ。現在、ソウル市では合計2,076世帯に踏み石所得を支給している。
3年間の所得実験の結果、中間所得の85%を超え、踏み石所得を受け取る必要がなくなった「脱受給」世帯の割合は8.6%に達し、労働所得が増加した世帯も31.1%に上った。そのほか、教育訓練、貯蓄などの生産的活動、必需品の消費支出の増加、精神健康の改善など、さまざまな分野で効果が確認された。
世界の著名学者も踏み石所得を高く評価している。ノーベル経済学賞受賞者のエステル・デュフロ(Esther Duflo)マサチューセッツ工科大学教授は、「統計システムが正しく機能する韓国では、選別的支援のほうが適しており、私がやっても同じようにしただろう(2023ソウル国際安心所得フォーラム)」と絶賛した。また、デイビッド・グラスキー(David B. Grusky)スタンフォード大学教授は、「踏み石所得のパイロット事業は科学的かつ体系的に進められており、この制度を拡大・適用し、適切に評価すれば模範的な事例になり得る(2024ソウル国際踏み石所得フォーラム)」と評価した。
「踏み石所得の整合性研究結果」発表… 36の社会福祉制度を統合・連携した場合、効率性が最大化
ソウル市は、これらの実質的な改善効果が証明されたことを受け、「踏み石所得」を社会保障制度の一つの軸として定着させ、全国的に拡大するための研究を昨年3月から開始し、1年余りを経て「踏み石所得の整合性研究結果」を発表した。主な要点としては、現行の95の社会福祉制度のうち36制度と統合・連携すれば効率性が最大化する点、また社会保険・社会サービスの有機的な連携を通じた好循環型のセーフティーネットを構築することで、効果を高められる点が挙げられる。
貧困化する前に支援を行うことで回復力を高めるパラダイムシフト、ビジョンを提示
この研究結果の発表に先立ち、オ・セフン市長は「貧困化してから支援するのではなく、貧困化する前に支援を行い、回復力を高める福祉政策へのパラダイムシフトが必要」だと述べ、「踏み石所得」を中心としたK-福祉モデルのビジョンを提示した。
まず、踏み石所得を基盤に、類似する現金給付を効率的に統合・連携し、複雑な所得保障体系を整理することで、より綿密な福祉セーフティーネットを構築できる。また、国民年金改革と連携し、踏み石所得を活用して老後の所得保障体系を構築すれば、弱者層にとっては心強い代替的福祉制度になると述べた。
さらに、踏み石所得による所得支援にとどまらず、社会保険や社会サービスまで連携した「ケア、雇用と就職、教育と訓練」を組み合わせた安定的なK-福祉モデルを確立し、回復力を高めるビジョンを示した。
続いて、研究を総括したソウル福祉財団が「踏み石所得の整合性研究結果」を発表した。1年間にわたる研究では、踏み石所得の政策対象と現行の社会保障制度との連携、インセンティブ制度、持続可能性などが重点的に取り上げられた。
特に、踏み石所得を全国的に拡大した場合、他制度への影響を綿密に考慮し、社会保障制度間の衝突や排他性が生じないよう調整する方法を集中的に検討した。
まず、政策対象を、現行の福祉基準(中間所得32%以下の貧困層)よりやや所得水準が高いが、貧困リスクや不安度が高い層まで拡大し、踏み石所得の本来の趣旨である「貧困化する前に支援する」方策を提示した。
また、今回の研究で、踏み石所得と約95種類の福祉制度との関係性を分析した結果、類似する生計給付、自立給付、国民就業支援制度(第1類型)などは統合し、基礎年金などは連携するなど、36の現行福祉制度を統合・連携すれば、より効率的な福祉システムを完成できると明らかにした。
加えて、国民基礎生活保障制度などの「公的扶助」、国民年金などの「社会保険」、保育・高齢者ケアなどの「社会サービス」の有機的な連携を通じた好循環型のセーフティーネットを構築し、統合的な事例管理を行っていけば、所得支援政策の効果性を高められると付け加えた。
最後に、社会環境の変化に応じた盲点の解消、貧困化に先だった支援、危機発生時の適時支援、下位所得者ほどより多くの支援を受ける「下厚上薄」構造を備えた持続可能な制度である点に焦点を当てつつ、踏み石所得こそが、国民が実感できる現代に最も適したモデルであることを改めて強調した。