ソウル市は2014年5月に外国人住民40万人の多文化時代(市民25人に1人が外国人)を迎え、向こう5年間(2014~2018)の外国人住民政策の青写真となる基本計画「多価値ソウルマスタープラン」を発表した。
同計画は、自治体としては初めて試みられる外国人住民政策のマスタープランで、「多文化時代、皆で生み出す多様性の価値」という意味が込められており、中央政府の目の届かない死角を見つけ出してきめ細かい支援ネットワークを構築しようというのが特徴だ。
例えば、2018年に「統合国際文化院」を設置して非OECD諸国の文化院の設置・入居を支援し、多文化都市のランドマークとして育成する。今年7月には第2グローバルセンターをヨンドゥンポグ(永登浦区)にオープンさせ、第1センターともに年内に週末までの運営時間を試験的に拡大延長する。
2016年に自治体てしては初めての「外国人留学生総合相談支援センター」をオープさせて外国人の生活や就職を支援し、「ソウル市立技術教育院」1カ所は外国人住民の子どもの就職支援を重点的に行う機関として運営される。
言葉や法律、行政、就職などが壁になっていた外国人住民のために、「司法通訳・翻訳者」やニューディール雇用「ソウル通信員」「予備非営利民間団体登録制度」「外国人住民就職博覧会」なども新たに導入される。
また、外国人住民当事者の直接の意見を定期的に聞き、市政に反映させるための窓口として、国籍別・移住対象別の代表性を備えた外国人住民を中心とした代表者会議を新設する一方、地域社会に功績のある「模範外国人住民」を選抜して市長表彰を授与する。
ソウル市は、2013年4月に「多価値ソウルマスタープラン」の策定に着手し、学術部門を皮切りに国籍別・移住対象別の外国人住民と市民団体、学界・関係専門家らとの52回の協議を経て、▴人権価値の拡散 ▴文化多様性 ▴成長の共有 ▴力量強化という4つの目標と14の政策課題、下位100単位事業を設定した。
1. 人権価値の拡散‐外国人住民は異邦人ではなく私たちの隣人 「世界市民の都市」
第一に、ソウル市はこれまで人権死角地帯にあった外国人住民の人権の制度的保護に向けた人権増進政策を重点的に推進し、「外国人住民は異邦人ではなく私たちの隣人」という認識が社会全般に定着するよう、様々な認識の見直し教育・キャンペーンに注力する。
まず、全国の自治体としては初めて、人権増進政策の総括組織としてソウル市女性家族政策室に「外国人住民人権チーム」を2月に新設した。同チームには外国人公務員2人を配置し、組織が率先して多文化を受け入れようとしている。
そして、住居人権の最低限の保障に向けた装置として、各圏域に1カ所、計4カ所の「外国人住民の憩いの場」を育成・運営する計画だ。周りに知り合いが一人もおらず、失業や離職、家庭不和などで今日泊まる場所もない外国人住民が利用対象だ。既存の民間団体が運営中の憩いの場を財政支援する形で発掘する。中長期的には「市立外国人住民憩いの場」の設立を目指す。
また、言葉の壁が人権被害や差別につながらないよう、「ソウル通信員」と「司法通訳・翻訳者」を新たに育成する。ソウル通信員は、ソウル型ニューディール雇用として韓国語が話せる移住女性や留学生ら10人を採用し、公共機関や医療機関などに同行して正確なコミュニケーションを支援する。ソウルグローバルセンターに申し込めば利用できる。
司法通訳・翻訳者は、法律の知識を備え、外国語も駆使できる人材を育成し、言葉が通じず法的知識のない外国人住民が法的紛争に直面したときに支援する。
認識見直し教育・キャンペーンは、二通りのタイプで実施する。まず、市と自治区の公務員、42の外国人支援施設従事者を対象に「多文化感受性教育」を定期的に実施し、行政手続きの際に頻繁に起こる人権侵害を事前に防止する計画だ。42の施設は、▴グローバルセンター1カ所 ▴外国人労働者支援センター7カ所 ▴グローバルビリッジセンター7カ所 ▴多文化家族支援センター24カ所 ▴グローバルビジネスセンター2カ所 ▴グローバル文化観光センター1カ所だ。
一般市民を対象として、食べて、着て、楽しんで、感じる(マッ・モッ・ラク・オル)国別の共感文化コンテンツを開発し、文化的なコミュニケーションを通じて自然に親しくなれるようにし、多様なオン・オフラインツールを活用したキャンペーンやUCC公募展など市民参加型のイベントを継続的に推進する。
2. 文化多様性‐政策ボランティアなど外国人住民が参加する自由な「先進多文化都市」
第二に、外国人住民が自ら政策立案や地域社会活動に参加できる多様な交流やコミュニケーションのチャンネルを設ける一方、「統合国際文化院」の設立など文化多様性が共存する持続可能な多文化エコシステムを構築する。
ソウル市は、国籍別・移住対象別の代表性を備えた外国人住民からなる「外国人住民代表者会議」を2015年に新設する。政策別・単位事業別の所管部署が出席し、各四半期ごとに1回の定期会議と随時分科会議を開いて政策に反映させる。
「予備非営利民間団体登録制度」も新たに導入される。法的非営利団体の条件を緩和・適用し、非営利団体に準ずる民間団体として活動できるようサポートする制度だ。ソウル市の公募事業への参加ルートも公開する計画だ。これは、現在の外国人非営利民間団体の登録手続きが不慣れで複雑で、団体の運営が事実上困難なことに着目した。予備団体が登録した後、体制が整ったら正式に非営利団体として登録できるようコンサルタントも並行して支援する。
こうして積極的に市政と地域社会に参加して功績のある外国人住民は「模範外国人住民」として市長表彰する。毎年5月20日の「世界人の日」に表彰状が授与される予定だ。
ソウル市は、経済的に困難な非OECD諸国が自国に文化院を設置できるよう、「統合国際文化院」を設置する計画だ。2018年のオープンを目処とし、様々な国の文化体験ができる多文化都市のランドマークにする計画だ。現在、ソウル市には、英国やドイツ、フランス、日本、ニュージーランドなど13カ国(全国16カ国)の文化院が単独で運営されている。
また、1月は「ソウル・モンゴル人の月」、2月は「ソウル・中国人の月」にように、1年12カ月を各国の「外国人住民の月」に指定し、該当国の記念日のイベントやフェスティバルをソウル広場で開き、該当国の住民のためのソウルタウンミーティングを催す。
3. 成長の共有‐ともに成長し社会的責任義務を果たす「共同成長都市」
第三に、外国人住民がソウル暮らしで感じる様々な不便を一体的に解決する総合支援施設「ソウルグローバルセンター」を1カ所(チョンノグ(鐘路区)ソリン洞)から2カ所に拡充する一方、彼らが権利だけでなく市民の一人として責任と義務も果たせるよう共同成長政策を推進する。
第2グローバルセンターは、ヨンドゥンポグ(永登浦区)テリムドン(大林洞)に2014年7月にオープンする予定だ。既存のヨンドゥンポ(永登浦)ビリッジセンターとソウル外国人労働者センターを統合・拡張したもので、規模は地下1階~地上4階、延面積936平方メートルだ。外国人住民のための総合相談室と講義室だけでなく、近隣地域の住民なら誰でも利用できるブックカフェや医療施設など住民便宜施設も備えられており、韓国内外の住民同士の交流増進が期待できる。
そして、平日よりも週末のほうが利用しやすい外国人住民の生活パターンを反映させ、グローバルセンターを含む42の外国人支援施設の運営方式を現在の平日中心から週末中心に全面的に転換する。.
また、従来の集合教育中心の韓国語教育をオンラインやモバイルなどでも学べるよう多様な教育環境を構築し、コンテンツも基礎中心から上級レベルまで拡張し、いつでも、どこでも、誰でも韓国語教育を受けられる教育システムを構築する。特に、上級クラスは就職に生かせるよう、韓国語能力試験クラス(TOPIK)課程を開設し、ソウル市の25の自治区全体に全面的に拡大して実施する計画だ。
他にも、民間銀行と連携して為替送金と両替の手数料割引サービスを提供すべく、現在具体的な割引率について協議中だ。特に、模範納税者や社会参加優秀者は手数料を全額免除する。
外国人住民が自国と違う法秩序や社会文化制度によって責任と義務を疎かにすることのないよう、「市民アカデミーの運営」「納税履行の強化と外国人住民サービスの有料化」「外国人住民自律防犯隊の拡大・運営」を推進する。市民アカデミーは、韓国社会の市民として心得るべき基本的な法や秩序などの素養を教育するもので、2015年から実施し、住民税といった税金の納付強化に向け、法務省及び安全行政省との連携を強化し、模範納税者に報奨を提供するなど誠実な納税を誘導する。
4. 力量強化‐労働者・留学生・結婚移住者の子ども・韓国系中国人_「競争力の高い都市」
第四に、ソウル市での就職や起業を望む外国人に対象別・国籍別のきめ細かい自立力強化政策を推進し、コリアンドリームの実現を後押しする。
「外国人住民就職博覧会」を新設し、適性と資質に合った職場が見つかるよう支援する。就職していて韓国語学習が困難な外国人労働者のために「職場訪問型韓国語教室」を実施し、実務に必要な韓国語能力の向上を支援する。
起業は生計型から高付加価値型まできめ細かく支援する。食料品小売業や流通業など生計を立てるために起業した店舗を訪問して現場で指導する「グローバル店舗クリニック」を実施するほか、技術・知的財産中心の起業アイデアを持つ外国人・留学生を対象に「外国人企業大典」を開催し、入賞チームにはインキュベーション・オフィスへの入居機会と技術起業ビザの資格取得のポイント提供といった報奨を与える。
また、2015年から外国人労働者への差別待遇と賃金滞納に対する訴訟などを専門的に支援する「外国人労働者法律支援官」を配置する。このために、弁護士または労務士を新規採用する計画で、ソウル市の外国人住民人権チームの所属として活動する。
自治体としては初めて外国人留学生を対象に「外国人留学生総合相談支援センター」を設置する計画で、2016年のオープンを目指している。ここで住居や大学生活、医療など留学生活に必要な総合相談サービスを提供し、自己紹介書の作成の指導や韓国語教育など就職に必要な力量を強化するプログラムと就職斡旋を支援する計画だ。
また、留学生‐大学‐民間企業を連携させた「留学生民間企業インターンシップ・プログラム」を実施する。留学生のインターンを必要とする企業を調査し、大学の推薦を受けた留学生を企業に紹介するものだ。
外国人住民の12%を占める結婚移住者約5万人を対象として、質の良い雇用の提供と学業を通じて自己実現をサポートする計画だ。母国語の能力が生かせる「観光通訳案内士」や「ソウル通信員」などの雇用を積極的に増やし、彼らが専門的領域で活動できるよう支援する。
また、民間の財源を活用し、結婚移住者と小中高大学に通う多文化家族の子どもを対象に奨学金を支援する。今年は299人に30~300万ウォンを支援する。他にも、結婚移住者を対象に精神健康医学科の無料診療サービスを提供し、子どもと一緒に音楽治療や美術治療などを受けられるプログラムを拡大する。
外国人住民の半分以上を占める(57%)韓国系中国人を対象として、韓中間の貿易や文化交流などで架け橋の役割を果たす専門家を育成するとともに、官民共同協力を通じ、韓国系中国人の密集地に蔓延する無秩序行為を根本的に改善する計画だ。
専門家育成計画は、韓国系中国人は二カ国語を話せ、多様な文化的背景を持っているという強みを生かそうというもので、「韓国系中国人活動家育成アカデミー」を通じて育成する計画だ。他にも、力量強化に向けた起業や税務、法律などの実務教育も実施する。
住民の40%以上が韓国系中国人であるヨンドゥンポグ(永登浦区)テリムドン(大林洞)では、ゴミの違法投棄や飲酒、高声放歌など基礎秩序の改善に向けた大々的な先導キャンペーンを推進する。他にも、各種政策懇談会や専門家諮問会議などで継続的に提案されてきた ▴外国人住民の子どもに保育料を支援 ▴韓国人に準ずる永住権者への福祉支援 ▴各種委員会で1人以上外国人住民の参加を義務化 ▴外国人労働者と留学生の専門寮を設置など、今すぐ推進が困難な政策課題は、長期検討課題として個別に管理し、変化する行政条件に沿って施行の妥当性の是非を再検討する計画だ。
ソウル在住外国人の現況
□ ソウル在住外国人の現況:395,640人
○ ソウルの人口(10,195,318人)の3.9%
○ 労働者29%(非専門人材87%)、外国籍の韓国人20%、結婚移住者12%、留学生7%の順
|
|
国籍別の外国人住民の現況
○ 中国(韓国系中国人を含む)、米国、日本、ベトナム、台湾、カナダの順
○ 韓国系中国人が外国人住民全体の57%と多数を占める
|
|
自治区別の外国人住民の現況
○ ヨンドゥンポグ(永登浦区)、クログ(九老区)、クァナクグ(冠岳区)、クムチョング(衿川区)、クァンジング(広津区)、
ヨンサング(龍山区)、トンデムング(東大門区)の順に外国人が密集
|
|
年度別の外国人住民増加の推移
○ この5年間、外国人住民の数は増加傾向
○ ただし、2013年は訪問就業制(H2)の期間満了の年で、一時的に減少
|
|
「多価値ソウル・マスタープラン」の主要内容
4つの目標 |
主要内容 |
備考 |
人権価値の拡散 |
外国人住民人権チームを初めて新設 |
外国人公務員2人 |
各圏域に1カ所「外国人住民の憩いの場所」を設置 |
民間施設への財政支援 |
ソウル通信員と司法通訳・翻訳者を新たに育成 |
コミュニケーションをサポート |
公務員と42の施設従事者「多文化感受性教育」 |
|
文化
多様性 |
「外国人住民代表者会議」2015年に新設 |
政策議題の自己発掘と想定 |
「統合国際文化院」を設置 |
|
「グローバル・ボランティア(仮称)」を構成 |
プロボノ、ボランティア活動への参加 |
「予備非営利民間団体登録制」を導入 |
|
「模範外国人住民」を選抜、市長表彰 |
来年の「世界人の日」から |
「統合国際文化院」2018年のオープンを目処に建設 |
多文化都市のランドマークに育成 |
「外国人住民の月」を指定、イベント及びフェスティバル開催 |
|
成長の
共有 |
7月に「第2グローバルセンター」がヨンドゥンポグ(永登浦区)にオープン |
|
グローバルセンターと42の施設の運営時間延長を週末まで拡大 |
|
オンライン・モバイルでの韓国語教育環境の構築 |
|
為替送金と両替手数料の割引サービス |
民間の銀行と連携 |
「市民アカデミー」2015年から実施 |
法や秩序など基本的な素養の教育 |
力量
強化 |
「外国人住民就職博覧会」を新設 |
今年9月中 |
生計型起業店舗訪問「グローバル店舗クリニック」 |
|
「外国人起業大典」で各種報奨を提供 |
|
「外国人労働者法律支援官」を配置 |
弁護士または労務士で構成 |
「外国人留学生総合相談支援センター」を設置 |
自治体として初めて |
「留学生民間企業インターンシップ・プログラム」を実施 |
留学生‐大学‐企業連携 |
結婚移住者と多文化家族の子どもを対象に奨学金を支援 |
民間の財源を活用 |
市立技術教育院1カ所、外国人住民の子どもの就職を重点的に支援 |
|
韓中架け橋の役割を担う韓国系中国人活動家の育成 |
|
関連リンク:多文化家族支援事業