「ソウル市に望む人権政策」現場ヒアリングツアー政策討論会
日付:2012年7月24日 場所:ソウル市庁・西小門庁舎大会議室
本日は皆様のたくさんの貴重なご意見、ありがたく承りました。中央政府でない、地方政府ならではの限界も多いのではないかと思います。特に、条例など権利と義務を定めることはなかなか難しいのが事実です。そのため、もっと強く推し進められない部分もあります。頂いたご意見については、私が今この場ですべてお答えすることは難しいと思います。
先ほどご意見がありましたが、非正規雇用問題については、ソウル市がすでに政策を打ち出しており、継続性のある業務については出来る限り最初から正社員として採用するという原則を定めました。これはソウル市だけではなく、ソウル市とかかわりのある機関についても、正社員採用を勧める、さまざまな措置をとっております。次に労働権や交通権についてのご意見もありましたが、労働権はすでに韓国の憲法に定められた権利です。また、冠岳山(クァナクサン)を例に挙げられましたが、自然環境権というのも本当に大事だと思います。それに加え、私は次世代の人々が豊かな自然環境を享受する権利もあると思います。そして、エイズ患者の権利、外国人労働者や移民の権利、障害者や児童の権利などもあります。また、情報人権の問題についてもお話があったのですが、我々が個別的な政策として別途行っているものもあります。
障害者の人権についても、まだまだ足りないという皆さんのご意見がありましたが、我々は障害者団体や専門家など数百人もの方々から数カ月にかけて意見を聴取し、最善の政策になるよう頑張っています。それら全てを実現させるのは現実的に無理かもしれませんが、それでも専門家や障害者団体からはそれなりの評価をいただいた政策です。
次に情報人権というものについては、印鑑証明書や監視カメラにおける個人情報保護に関するご意見がありましたが、印鑑証明書の場合は行政上、中央政府が決めなければならないことです。しかし、ソウル市レベルでは何ができるか、もっと工夫を凝らしてみます。監視カメラの場合は、市民の安全のためにも必ず必要なものだと思います。監視カメラに反対するイギリスの関連団体によると、犯罪予防効果があまり大きくないということですが、それについては我々が科学的な検討を行う必要があると思います。それに、我々は今セプテッド(CPTED)という防犯環境設計の導入を進めています。これは監視カメラを一つの手段ではなく、犯罪者の心理や行動パターンまで考慮した上で施したデザインを通じ、犯罪を予防するのが狙いです。そのデザインをソウル市傘下のデザイン財団に依頼しておりますが、そのほかにも、ユニバーサルデザインの導入も推進しております。
また、浦二洞(ポイドン)のように現在ソウル市が再生に取り組んでいる脆弱な地域がいくつかあります。これについても、計画の全般的な見直しを行う予定です。私がお約束した通り、ソウル市が権限を持っている限り、できるだけ住民たちの要望や立場を十分考慮し、いかなる場合でも住民の意に反する撤去などの措置をとることはありません。ですから、住民との話し合いの場を設け、そこでの意見を十分反映するようにします。次にソウル広場のことですが、ソウル広場は完全申込制です。それでおそらく別の団体の申し込みと重なったのではないかと思いますが、それ以外の場合ならいつでも利用できるようにしております。また費用の問題については、一度検討させていただきたいと思います。清渓川(チョンゲチョン)の場合はきちんとした規定があります。たとえば非営利団体などが行う公益性の高いイベントの場合は、ソウル市が費用の一部を支援するか、それともソウル市との共同主催という形でできるだけ費用の負担がかからないように、条例などで決めておくのが良いのではないかと思います。
私は人権というのは常に変わっていくものだと思います。たとえば、昔はいわゆる市民の政治的権利がとても重要でした。もちろんそれは今でも重要ですが、いまや生活の中で様々な形で存在する人権全てが重要な時代になりました。
私はこういうことも人権ではないかと思います。数カ月間海外に滞在してから韓国に帰ってくると、例えば、うっかり誰かと肩がぶつかってしまったり、人の足を踏んだりした時、思わず「ソーリー」とか「すみません」が口から出てくるのです。ところが、韓国人はそういう場合でも一言謝りもせず去ってしまう人が多いですね。自分の人権はしっかり求めながらも人の人権はないがしろにしてしまう部分がどこかにあります。先ほど皆さんのご指摘通り、条例などを作っておしまいではなく、それがきちんと守られるよう、特にソウル市が行う政策などは関連機関を通じて、しっかりチェックしなければならないと思います。さらに行政の権限が及ぶ範囲内で、様々な保護活動を行っていくことをお約束いたします。
しかし、ソウル市だけで成し遂げられることは何一つないと思います。市民の皆様のご支援、ご協力は絶対に必要と思います。様々な人権とその要求については、人権に対する感受性というものがないと、何もはじまりません。私たち一人ひとりがその感受性を持っていると、人権ははるかに高いレベルで守られると、私は確信しています。
だからこそ人権教育や人権活動がとても重要なのですが、ソウル市がそれを政策的に支援しなければならないと思います。また、ソウル市が直接行うよりは、人権センターという中央でない中間支援機関を通じて行うことが最も望ましいと思います。それによって、より多くの人権団体が生まれ、旺盛な活動を行っていただけたらと思います。よくガバナンスという言葉を耳にしますね。これはソウル市単独で出来ることではありません。人権問題が身近に感じられるように、高校などでも人権サークルのようなものを作ったりして、人権というものを社会全般に広める必要があると思います。
そこで、皆さんからご意見がありました「市民人権保護官」というのも、調査権と救済の実効性をより高めるようにするのがいいと思いますが、先ほど申し上げましたように地方自治体では限界があるのが事実です。調査ならできるのではないかと思われますが、それも断られたら我々としてできることは何もありません。ですが、条項があるだけでも意味があるのではないかと思いますので、つくっておく必要はあるでしょう。
また、ソウル市の得意な分野は社会的、経済的な権利の分野です。私が市長になってからは基本的な福祉、最低限の福祉というものを中心に進めてきました。もちろん予算の問題もあるので、そう簡単ではありませんが、それでも今多くの方々が協力してくださっています。先ほどご提起いただいた債務者の権利やその困難さもここに含まれるのではないかと思います。そのほかにも、ちょうど今朝私が政策として発表した公共医療ですが、およそ3千億ウォンの予算が必要な分野です。病気になった時に治療を受けられる権利も、最も重要な権利の一つではないかと思います。
次に、ニュータウンのことですが、今ソウル市にはいわゆる「チョッパン」や「考試村(コシチョン)」と呼ばれる狭くて厳しい住環境にお住まいの方がおよそ40万人います。人間としての必要最低限の尊厳を守りながら暮らせるような住居を提供するのはとても重要な政策だと思いますが、問題は予算です。
現在、ソウル市は合計19兆ウォンもの負債を抱えており、一日に21億ウォンの利子を支払っています。私が市長に就任した当時は負債がおよそ20兆ウォンでした。前任の市長らがあまりにも大きな事業をいくつも繰り広げていたものですから。そのため正直私があまり大規模な事業を展開するのは難しいです。むしろ限られた予算を効率よくやりくりしなければならない状況です。それでお金をあまり使わなくてもできる事業を見つけるのに必死です。さらにその中からも慎重に選択しなければなりません。
これまでは人の暮らしに投資をした例はほとんど見られませんでした。そして今も市の財政状態を考えれば、大幅な投資をするのはとても困難な状況です。それでも我々は頑張ってやっていこうと思っております。本日ご指摘をいただいたことにつきましては、ここにしっかりメモしておきましたので、関連部署と相談した上で政策に反映するよう努めます。先ほども申し上げましたが、こういう形を取らせていただいたのは、皆様のご意見を大事にして政策を進めていきたいと思うからです。
それで条例案や基本政策を策定する過程で、もちろん条例は市議会の議員に最終的に決めてもらわなければなりませんが、それでも市民の皆様のご意見が大いに反映され、大きな影響を与えると思います。
一過性のイベントで終わるのではなく、これからも引き続きこうしたガバナンス(協治)の形を通してご意見を承り、それを政策に反映し、共に実現していく、人権を大事にする都市、ソウルを目指してまいります。皆様、本日は貴重なご意見、誠にありがとうございました。