グローバル社会的経済協議会(Global Social Economy Forum、GSEF)は、2014年、ソウルでの創立総会をもって発足した国際機構で、交流と連帯を通じた社会的経済の発展に向けて地方政府と民間機関が協力して活動する協議会である。
2014GSEF創立総会 | 2016GSEF創立総会 |
現在23の都市や民間団体などが加盟している。地方政府ではソウル市やモントリオール(カナダ)、ビルバオ(スペイン)などがある。民間機関ではAVPN(シンガポール)やHKCSS(中国)、労働者協同組合(日本)などが活動している。
ソウル市のパク・ウォンスン市長とソウル市社会的経済ネットワークのソン・ギョンヨン理事長がそれぞれ政府と民間を代表して議長を務めており、事務局はソウル市に置かれている。
総会は隔年で開かれ、加盟機関間の連携やアジア政策フォーラム、社会的経済のノウハウの共有に関するセミナー及びワークショップの運営といった事業を行っている。
2016年上半期には、アジア地域における社会的経済の活性化に向け、AVPNと共同で香港で「アジア政策対話」を主催し、ソウル市で開かれた「都市政策共有国際フォーラム」では社会的経済セッションを主管し、持続可能な開発目標(SDGs)の履行戦略として社会的経済にスポットを当て、その可能性を広げた。また、国際カンファレンスなどに参加し、加盟機関及び国際機関との連携・協力を維持するとともに、継続的かつ精力的な加盟誘致・広報活動を行っている。
こうしたGSEFに関するニュース情報は、毎月発信される「GSEFニュースレター」を通じて知ることができるほか、ホームページ(www.gsef-net.org)を通じても加盟都市及び民間団体の社会的経済の優秀事例に関する研究資料などを閲覧することができる。
2014にGSEFが提示した社会的経済は、資本主義市場経済の発展が生んだ不平等や貧富の格差、環境破壊など様々な社会問題への代案として示された。
社会的経済とは、利潤最大化こそ最高の価値である市場経済とは異なり、人間的価値を優先する経済活動のことである。一言で「人中心の経済」と表現することができる。
社会的経済は、欧米では1800年代初頭に協同組合や社会的企業、相互扶助組合、コミュニティビジネスといった形で登場した。韓国では1920年に農民協同組合や都市の貧困層によるトゥレ組合といった形で現れた。その後、1960年代に始まった信用協同組合運動、1980年代の生活共同組合運動、1997年の通貨危機後に構造化した失業問題や雇用不安、深刻化した貧富の格差、地方衰退問題などの解決を目指して自活企業や社会的企業、マウル(わが町)企業、協同組合などが始まり、社会的経済の役割は一層重要になりつつある。
「2016GSEF総会」の様々なプログラム |
2016年9月7~9日にカナダ・ケベック州のモントリオール・コンベンションセンター(Palais des Congrès de Montréal)で2016GSEFの第2回総会が開かれた。
62カ国330都市から訪れた1500人余りの出席者は、「協同組合や社会的企業など、社会的経済が不平等や失業、社会的排除といった現代社会が抱える様々な社会問題を解決するカギになる」と口を揃えた。
議長都市の首長として出席したパク市長は、初日午前9時に開かれた開会式で、「世界が経済危機に直面し、不平等が深刻化するなか、新たな経済エンジン、新たなパラダイムシフトが必要なときに、私たちはその答えを社会的経済に見出そうとしている」と述べた。
さらに、社会的経済は国でも市場でもなく市民の参加によって成り立つ経済であり、協力、協同、連帯、平等という価値を取り戻そうという運動また行進であるとし、利他心、相互性、名誉、献身といった動機が支配する経済であると説明した。
そして、この4年間で質の高い雇用と社会的価値を創出し、量的・質的成長を同時に成し遂げたソウル市の社会的経済の成果について説明した。ソウル市は、この3年間で売上1兆4,600億ウォン、雇用創出1万7千人という成果を上げた。
ソウル市社会的経済支援センターの内部 | 自治区別社会的経済空間及び支援組織造成の現況 |
社会的企業や協同組合、マウル企業など、ソウル市所在の社会的経済企業の売上と雇用規模はこの3年間で約2倍になった。社会的経済企業の数は2016年7月時点で計3,318社と、2012年末時点(819社)の約4倍に増えた。
特に、基本法の施行に伴い、協同組合は2012年の16から2016年7月には2,541と大幅に増えた。売上も1兆4,600億ウォンと、2012年(6,870億ウォン)の約2.1倍に増え、雇用規模も9,300人から1万7,400人と約1.8倍増えた。
政府の財政投入に対する社会的企業の低所得層の雇用創出と社会サービスの価値を測る「社会的成果指数」は12.9ポイントだった。これは、政府の財政投入に対して12.9倍の社会的価値を創出したことを意味する。
GSEF総会の開会式に出席した主要都市の市長団 | モントリオール市長と握手を交わすパク市長 |
こうした社会的経済が役割を果たすには、地方政府とのパートナーシップが重要であるということが様々な発表で言及された。セッション「都市の持続可能な発展戦略としての社会連帯経済」でボローニャの事例を発表したグリエルモ・マルコーニ大学のクリスティアン・イアイオネ教授は、共有財としての都市を強調した。地方政府は住民の意見を聞き、それを反映させることができる最前線にあるため、社会的経済運動において地方政府との協力は欠かせないものであり、地方政府は制度や空間といった資源が公共のために使われるよう設計・執行しなければならないとした。
コンコルディア大学のマルグリット・メンデル教授は、モントリオール市と社会的経済組織が協業を試みた経験について紹介した。2009年、社会的経済組織はモントリオール市と協約を結び、共に集まって情報を共有することにした。学界の有識者や地域社会の現場の専門家、モントリオール市代表らが参加した。
しかし、この試みは成功しなかった。当時、モントリオール市は社会的経済組織とどう連携すればいいのかについて、ノウハウを持っていなかったのである。市が社会的経済企業から受けているサービスや製品は何か、満足度はどうか、調達において社会的経済企業の領域を拡大する方法は何かについて議論し合う準備ができていなかった。そこで、モントリオール市に対し、この議論を本格的に再開しようと呼びかけた。総会でモントリオール市のデニス・コデール市長は、現場のこうした声に答えた。コデール市長は、社会的経済は人が中心の民生問題であり、社会的経済が主流に位置づけられるよう、都市政府と市民社会が連帯することで、考えは地球レベルで、実践は地域レベルで行なう必要があると力説した。
今年の総会では、社会的経済の国際連帯がもう一つ実を結んだ。加盟機関は社会的経済の知識交流システムの発足で一致した。
まず、ソウル市とモントリオール市、モンドラゴン(スペイン)は社会的経済に関する知識を共有し、活動家らの交流を活性化させる中心機関「国際知識伝授センター(CITIES)」の発足を約束した。
同センターは、各国の社会的経済に関する模範事例と知識を発信し、地方政府と市民社会間の連携強化を目指すGSEFを後押しする役割が期待されている。
閉会式で出席者らは、社会的経済を通じた革新により、先頭に立って地域の問題を解決するという内容を「モントリオール宣言」に盛り込んだ。彼らの「希望と情熱」がどう実現するか注目される。
今年の総会に、国内ではソウル市やソウル社会的経済ネットワーク、京畿道タボク共同体、全国社会連帯経済地方政府協議会、アイクープ生活協同組合などが発表者として参加し、参加型ガバナンスや公共購買と社会的協約、移住と都市変化‐再生とジェントリフィケーション、社会連帯経済における経営者と政治家間のネットワーク、社会的経済の地域エコシステムの開発などについても意見が交わされた。
総会開催後には後続フォーラムが開かれ、モントリオール総会に出席できなかった社会的経済関係者や一般市民に対し、総会の内容及び成果を共有するとともに、海外都市・団体の社会的経済に関する事例や国内への適用方法などについて議論が交わされた。パク市長は、世界金融危機後の経済危機克服のカギを社会的経済に見出すことで一致した各国の地方政府や民間団体などが一堂に会すGSEF総会はその第一歩となった「ソウル宣言文」に盛り込まれた理念を想起し、ビジョンを共有する場であるとし、GSEF議長兼ソウル市長として、社会的経済を基盤に持続可能な発展を成し遂げていくうえでGSEFが中核的役割を果たせるよう全力で取り組んでいきたいと、改めて強調した。