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[2012] 市長挨拶

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    ソウル市民福祉基準発表

    月日:2012年10月22日 会場:ソウル市庁ブリーフィングルーム

    キム・ミョンス市議会議長、そしてこの場にはご出席されていませんがキム・ヨンミョン教授をはじめとする市民福祉基準推進委員会の皆様。お疲れ様でした。ただ今から、この9カ月にわたって専門家や市の職員、ソウル市民の皆様が一緒になって策定したソウル市民福祉基準を発表いたします。

    私が市長に就任して間もないある日、市民から一通の手紙が届きました。障害者で生活保護を受けている方が書いたものでした。どこで何をしているかもわからない娘の所得が増えたために、それまでもらっていた生活保護費が減額されたから何とかしてほしいという訴えでした。私はこの手紙を読んで、何か間違っているという気がしました。そして、こうした理由で受給者から外されるソウル市民の数が現在の受給者の数よりも多いことを知り、市長候補時代にソウル市民の福祉基準をつくると約束した公約を早く実現させなくてはいけないと思いました。

    これまで韓国は実に多くの発展を遂げてきました。経済力では世界15位の大国だといわれます。

    しかし、皆さんの暮らしの質はどうですか?OECD加盟34カ国の中で、韓国は高齢者の貧困率1位、最低の出生率、自殺死亡率1位です。目を覆いたくなる現状です。開発ばかりに投資を行い、国民の暮らしへの投資をないがしろにしてきたためです。

    ソウル市民の皆様の暮らしはさぞかし苦しいでしょう。他の市・道に比べて物価水準が高いためです。住宅の価格や賃貸料は2倍以上高く、教育費も多くかかります。ところが、最低生活費は中小都市が基準で、ソウル市もそのまま適用されています。ソウル市の中での地域格差も広がっています。

    さらに大きな問題は、ソウル市民の暮らしがますます苦しくなっていることです。中間層は崩壊し、貧困層は増え、最終的に市民の皆様の暮らしの質は悪くなり続けています。

    ですからソウル市の福祉基準が必要です。ソウル市の特性を反映させた福祉の基準をつくり、その実現を目指して福祉への投資、人への投資を増やしてまいります。東京では1960年代に「シビル・ミニマム(Civil Minimum)」という福祉基準がつくられ、英ロンドンでは市民の暮らしの質を高める「ロンドンプラン」が施行されています。

    ソウル市民福祉基準は市民が受ける福祉の基準になるので、社会的な合意を得ることが最も重要です。ですから、専門家と市民代表からなる推進委員会で基準案づくりなど重要な決定を行いました。たたき台となった福祉基準の素案は各分野の専門家からなる研究チームが策定し、市の職員は提示された案が実現可能かどうか検討を行いました。そして、何よりも市民の皆様が、政策ワークショップや1千人の円卓会議、ソウル福祉メアリ(こだま)団など、様々な形でこのプロセスに参加してくださいました。

    今年2月に作業を開始した市民福祉基準は、4月に研究チームが提示した素案に政策ワークショップと1千人の円卓会議で出された市民の意見を反映させ、予算検討を経てから9カ月目の本日、皆様に発表することとなりました。

    こうして誕生したソウル市民福祉基準は、市民なら誰でも受けられる最低基準とより質の高い暮らしを享受できる適正基準、そしてそれを実現するための102の事業で構成されています。市民の日常生活と関わりの深い所得、住居、介護、健康、教育の5つの領域において、皆様の暮らしの質を向上させる福祉憲章となり、ガイドラインの役割を果たすでしょう。

    それでは、各領域の福祉基準と事業内容について具体的に説明いたします。

    まず所得分野です。最低基準は「ソウル市の特性に合った最低生活費を保障するもの」とし、適正基準は「国際的な貧困線である中位所得の50%以上」としました。

    所得分野の福祉基準の達成に向け、ソウル市は様々な事業を実施します。ソウル型基礎保障制度を導入して中央政府の扶養義務者基準と所得・財産基準を緩和し、貧困層19万人に対して基礎生活保護受給者の生活費の50%程度の給付に匹敵する教育・出産・葬祭費を支給します。来年はこれに410億ウォンの予算を投じる計画です。また、働き口の提供が最高の福祉になるため、2018年までにソウル市の最低生活費以下(116%)にいる6千人に対して自立するための就職の機会を提供し、若年雇用2万 5千人、女性雇用2万 7千人、高齢者雇用10万人を拡充します。所得がないのに息子の所得のせいで受給者になれなかった市民も、ソウル型基礎保障制度によって毎月一定の給付金を受け取れるようになり、多少負担が軽くなるでしょう。

    ソウル市民が最も心配しているのは住宅問題だといいます。ソウル市民のうち所得下位20%の層では、所得に占める家賃の割合が41.9%にも上ります。所得の半分を家賃で持っていかれたら、どうやって生活していけばよいのか誰でも心配になります。そこで、「賃貸料は所得の30%以下、住居空間は国の最小住居基準以上」を最低基準と定めました。そして、「賃貸料は所得の25%以下、住居空間は4人家族基準で54平方メートル以上」を適正基準として支援することにしました。そのために、2020年までに「住宅在庫の10%を目処に公共賃貸住宅を拡充」し、「住宅バウチャーによる所得補助」により低所得層の賃貸料負担を減らします。そして急増する高齢者と多くの障害者のために住宅とヒューマンサービスを連携させた「高齢者・障害者支援住宅」を2014年から毎年300戸ずつ、2018年までに1500戸供給します。半地下の賃貸部屋で家賃と暖房費を心配しながら寒い冬を過ごしてきた人々が少しでも暖かい冬を過ごせるよう願っています。

    韓国はOECD加盟国の中で出生率が最低です。その韓国の中で、ソウル市は出生率最低の自治体です。

    なぜ子どもを産まなくなってしまったのか。答えは簡単です。育児が大変だからです。ソウル市の保育所のうち、国公立の保育所は現在10.8%に過ぎず、入所申し込みから1~3年待たなければ空きが出ません。そして、ソウル市の高齢者や障害者の中には、必要な介護サービスを受けられないでいる多くの方がいます。

    そんな方々のために「世帯所得の10%以内の支出での介護サービスの利用」を介護分野の最低基準とし、「全ての人が10分圏内で介護サービスにアクセス」を適正基準としました。こうした介護の基準を達成するために、国公立保育所を各洞に2カ所以上設置する計画です。また、保育所利用者の負担費用の適正化に向け、利用者の負担額が50%以下になるよう自治区を通じて促す方針で、乳幼児の保育サービスの量と質の充実を図ります。最低生活費以下の生活をしているのに国の支援を受けられない高齢者には、長期療養保険と高齢者介護サービスの自己負担を支援します。そして、国の活動補助サービスを受けられない1級障害者と障害の程度の重い2級障害者に対して活動補助サービスを追加支援する計画です。体の一部が不自由なのに障害者活動支援サービスを受けられなかった市民が、テハクロ(大学路)で好きな演劇を見られるようになることを願っています。

    治療が必要でも経済的理由から医療サービスを受けられなかった経験を持つソウル市民は18.1%に上り、健康面における地域格差も広がっています。こうした問題の解決に向け、必須の保健医療サービスを受けることを最低基準と定めました。そして、市民の健康水準の向上と健康面における地域格差の解消を同時に実現することを適正基準としました。そのために、市民なら誰でも10分以内の距離にある保健所を利用できるようにし、公共保険医療システムを強化して保健医療の死角をなくします。また、家族が介護できない入院患者に、看護師を中心とする無料介護サービスを提供すべく、来年からソウル医療院において「患者安心病院」を試験的に実施します。夜間・休日にも医療サービスを利用できるよう、夜間・休日診療センターを2014年までに100カ所開設します。ある3才の双子のお母さんは、もし深夜に子どもたちに何かあったら遠くの救急病院まで行かなければならず、とても心配したそうです。夜間・休日診療センターの拡充により、深夜でも近くの病院で診療を受けられます。

    韓国憲法には、義務教育期間における無償教育の原則が盛り込まれています。ところが、義務教育期間であっても経済的負担により教育の機会を阻まれている人がまだ多くいます。そして何より大きな問題は、同じソウルでも教育環境における地域格差が存在していることです。そこで、ソウル市民教育の最低基準として経済的負担の緩和を通じた学齢期に保障される教育的基本権の享受を定め、適正基準として成人への生涯教育の機会提供を定めました。

    教育分野の基準の実現は、教育自治の原理によって教育庁主導で行うべき事項です。従って、教育分野の福祉基準はソウル市教育庁と緊密に協議して共同で策定し、推進に際してもソウル市は教育庁を支援する形で進めます。そして、中央政府の協力を得られるよう、継続的に取り組んでまいります。まずは体験学習費や副教材費など義務教育にかかる追加費用を段階的に軽減し、既に施行中の環境にやさしい無償給食は2014年を目処に小・中学校全体に拡大しつつ、完全無償教育を目指します。

    ある小学校4年生のお子さんから、学校で食べる給食の質をお母さんがいつも心配していると聞きました。そして副教材費がかかるのでお母さんに申し訳ないと。小・中学校受益者負担経費ゼロ化事業のおかげで、来年から環境にやさしい給食が食べられ、副教材費も支援が拡大されるので、楽しく一生懸命勉強できそうだと話していました。

    ここまで5分野の福祉基準と事業についてご説明しましたが、これを実現する上で最大の問題はやはり予算です。ご存じの通り、ソウル市の財政状況はあまり良くありません。それでも、必要なことはやり抜くという覚悟で、緊急かつ重要な事業をまず施行し、効果の検証が必要な事業はモデル事業として推進します。また、様々な取組みを通じて予算を最小限に抑え、2018年まで人への投資を拡大してまいります。福祉基準を実現する102の事業に必要な来年度予算は1兆6210億ウォンで、教育庁の財源を含めると2兆7370億ウォンです。これは2012年度予算に比べて3580億ウォン、教育庁の財源を含めると7910億ウォンの増加です。現在約26%のソウル市の福祉予算の割合を2014年には30%まで拡大し、ソウル市民の福祉基準を実現すべく取り組んでまいります。

    福祉基準を実現するには、ソウル市の取り組みだけでは限界があります。国の法改正や財政支援など、多くのことが必要です。今、所得にソウル型最低生活費を導入するとしても、国レベルで国民基礎生活保護に関する法改正が必要です。小型・低価格住宅の供給拡大を通じ、庶民のマイホーム実現の機会を高めるために、住宅法や建築法の面積基準といった規制を緩和すべきです。公共介護サービス機関と従業者の処遇改善に向け、中央政府レベルでの制度改善が必要です。保健福祉分野の人材の安定供給に向け、中央政府による総定員制を弾力的に適用することが求められます。無償教育の拡大に向けた中央政府の政策決定が必要で、少人数学級の実現のために公立学校の教員採用規模を拡大する必要があります。そして、ソウル市が福祉事業を拡大する上で最大の障害となっている、ソウル市に対する国庫補助率の差別的な適用を是正しなければなりません。

    経済が厳しい中で福祉の拡充とは何事かと言われるかもしれません。しかし、福祉の拡大は投資です。多くの専門家が福祉分野の公共支出の拡大は、雇用創出と所得増大、支出増大につながり、ひいては経済成長を後押しすると分析しています。開発事業に比べて二倍以上も高い経済成長寄与率がこれを証明しています。ソウル市民福祉基準を実現することにより、二次的な雇用誘発効果を除いても、2018年までに17万件以上の雇用創出が見込まれます。これによって若年、高齢者、女性の所得が増大し、ソウル型基礎保障制度を通じて低所得層の所得が上がるでしょう。それだけでなく、低所得層の支出増加と医療費負担の緩和により、今後ソウルの経済発展に大きく寄与すると期待しています。

    本日発表したソウル市民福祉基準は、市民と共に社会的な合意を経て策定した福祉基準であり、全国初の福祉基準です。これにより、ソウル市の市政は開発中心から人間中心に変わり、市民であれば当然享受すべき権利となります。ソウル市民の福祉基準が韓国民全体の福祉水準を向上させる牽引役となることを期待します。

    これまでソウル市民福祉基準の策定にあたりご尽力された推進委員会と研究委員の皆様、そして誰よりも熱心に参加してくださった多くの市民の皆様に改めて感謝申し上げます。