ソウル市は2030年までに車がなくても便利に生活できる都市に進化する。歩道の面積は現在の2倍に増え、市内ではどこででも公共自転車が利用できる。また、道路を自動車だけのものではなく、歩行者、自転車にも優しいものにしようという「完璧な道(コンプリート・ストリート)」の概念が導入される。完璧な道(コンプリート・ストリート)とは? 歩行者、自転車利用者、公共交通機関の利用者、車のドライバーなど、すべての利用者が安全に使える道路(従来の自動車中心の道路を不完全な道と考え、これとは相反する概念)のことであり、現在アメリカの46州において適用されている。欧州でもこれに類似した概念が広まっている。
このような内容を含め、ソウル市は今後20年間ソウルの交通政策が進むべき方向、道路、歩行、都市鉄道網など、交通全般にわたる長期構想を盛り込んだ『ソウル交通ビジョン2030(案)』を5月23日(木)に発表した。
過去のソウル市の交通政策が「車両・所有・成長」に力点を置いてきたとしたら、今回のビジョンは「人間・共有・環境」という三つの中心価値を通じて現在のソウルの交通システムの持つ問題点を改善して進化していく。
ソウル市は『ソウル交通ビジョン2030(案)』を通じて、急激に進んでいる高齢化社会における人々のQOL(quality of life)を高めるために、市民の価値観の変化や先端技術の発達、気候変動やエネルギーの枯渇など最近の社会的・文化的変化の様相を反映しようとした。
まず、「人間が中心となる交通」を実現するために、歩行者と自転車を優先させる生活環境を作り、交通事故を画期的に減少させる。
現在1,013万㎡である市内の歩道の面積を2倍に拡大し、世宗路(セジョンロ)などを歩行専用空間に転換して市内各所に拡大させるなど、①歩行者優先の交通環境を整える。
パリのヴェリブのように、市内各所で自転車を借りて移動できるように、公共自転車を拡大・運営する。また、現在の漢江(ハンガン)とその支流を中心に構築されている自転車道路網を生活圏域にまで拡大し、公共交通機関との連携を強化するなど、②自転車が中心となった生活環境を造成する。
歩行者の交通事故の70%が生活圏道路から13m未満の場所で起きていることを考慮し、生活圏の交通環境を総合的に整備する。③「交通安全特別市」を実現するため、2030年までにソウル市内のすべての生活権道路の制限速度を30km/h以内に制限し、交通死亡事故を画期的に減らす。
現在、市内バス全体の27%(2,022台)を占めている低床バスを100%にし、交通弱者のいない④バリアフリーの交通環境やサービスを提供する。
需要の多い従来の都市鉄道の路線を中心に急行サービスを拡大し、都心を繋ぐ鉄道網を構築することにより、どこからでも10分以内に電車へアクセスできる⑤鉄道中心の効率的な公共交通機関システムを構築する。
中央バス専用道路をふやしてネットワークを完成させ、需要の集中する特定の時間帯・圏域などに様々なタイプのサービスを運営するなど、⑥迅速でかつ便利な公共交通機関サービスを提供する。
道路空間と交通手段をともに利用する⑦共有交通を活性化する。従来、自動車中心に利用されていた道路空間に、歩行、自転車、自動車などあらゆる交通手段が存在する「コンプリート・ストリート(Complete Street)」の概念を導入し、カーシェアリングサービスをさらに普及する。
2030年までに、都市の乗用車分担率を現在の18.4%から10%までに減らし、環境汚染物質を排出しない公共交通機関を現在の0.2%から100%までに拡大する。また幹線道路の混雑区間を現在の19%から10%に抑え、「環境を考える交通政策」を実現する。
車が移動した距離の分、通行料金を賦課する「走行距離に基づいた混雑料金制度」を導入し、都心には駐車場のない(Zero)大型施設物を導入するなど、⑧不必要な移動を減らす「移動低減社会」を目指す。
今までは単にエネルギーを消費していた道路が、これからはエネルギーを生産し、環境汚染物質を浄化する空間に生まれ変わる。また、バスやタクシーはもちろん一般乗用車にも環境汚染物質の排出しないエコカーを普及することにより、⑨交通手段や施設の環境性を強化していく。
交通政策を推進し、定着させるすべての過程において市民とコミュニケーションを取り、共感し合う、⑪市民が中心となる「交通文化の進んだ都市」を作っていく。
ソウル市は『ソウル交通ビジョン2030(案)』に基づいて11の約束を滞りなく進める。具体的には2030年までに乗用車の通行量を30%減らし、公共交通機関による平均通勤時間を30%短縮させ、エコ交通手段の利用面積の比率を30%拡大するという「トリプル(Triple) 30」の達成を目標に掲げている。
ソウル市は今回のビジョンの期限である2030年には、歩行、自転車、公共交通機関等、エコ交通手段の分担率が現在の70%から80%まで拡大し、一人当たり温室ガス排出量は現在の1.2t/年から0.8t/年へ減少すると期待している。