「青い空 天の川 白い小船には~」。子どもの頃、韓国人なら皆この歌を聞いたはず。1924年に発表された韓国初の童謡曲集「半月」に収録された童謡のワンフレーズ。作曲したのは、創作童謡のパイオニア、ユン・グギョン(尹克栄)先生。カンブク(江北)区スユドン(水逾洞)にソウルの未来遺産の一つ「ユン・グギョンの家屋」がある。ここはユン・グギョン先生が死去するまでの晩年を家族と一緒に過ごした場所だ。ソウル市は、ユン・グギョン先生を追悼するとともに、先生の業績を市民に紹介すべく、2014年に未来遺産保全試験事業に選定し、ユン・グギョン先生の遺品の展示と童謡教育のための空間として造成・運営している。
前述した未来遺産とは、市民の記憶に残る近現代のソウルにおける事件や人物、または日常にまつわる有形・無形遺産の中で未来世代に継承する価値があるもののこと。しかし、ここで疑問を抱く人もいるかもしれない。文化財制度があるのに、それとは別に「未来遺産」が必要なのかと。
指定または登録されていない近現代の文化遺産は、支援を受け、保護されるべきであるにもかかわらず、それが行われてこなかった。そのため将来において文化遺産や文化財になる潜在的価値があるにもかかわらず、現段階では文化財として認められず、消滅したり、破損したりしてしまうことが多かった。そうした危険性の高い遺産を「未来遺産」という名目で保護する必要があった。
特に、ソウルは2000年の歴史を有する韓国史の中心にあり、1876年の開港以来、日本による植民統治期、朝鮮戦争、近代化、産業化と激動の時代を綴り、近現代史の痕跡がそのまま残っている。そのため、ソウルには歴史的事件の現場、人物の足跡と生活の様子が数多く残っており、未来遺産に指定し、保存すべき近現代の文化遺産が至る所で発見された。
これを受け、ソウル市は2013~14年に市民公募や専門家の提案などを通じ、約1,600件の候補群を発掘し、専門家審議や所有者などの調査を経て345件の未来遺産を最終選定した。特に、市民社会の力を最大限に活用すべく、市民に未来遺産の候補群を発掘してもらった。また、ソウル市は未来遺産の所有者に未来遺産認証書を交付するとともに、選定された未来遺産には看板を立て、多くの市民に未来遺産の保存価値を認識してもらおうと取り組んでいる。
この2年の間に様々な文化遺産が未来遺産に選定された。父親と一緒に通った古い床屋。明け方、もやもやと煙が立ち昇り、香ばしいごま油の香りが漂っていた製粉所。100年の伝統を守り続ける洋服店。1970~80年代の労働者の哀歓が滲む産業団地。40年前、初めてお見合いした軽食店など。街の所々にソウル市民の思い出と心温まるエピソードが隠れている。
今、リバイバルブームが巻き起こっている。これに火をつけたのは、2013年に放映されたドラマ「応答せよ1994」。このドラマは、1990年代の懐かしさに多く人が共感し、大ヒットした。ドラマの舞台であるシンチョン(新村)にある、2014年にソウルの未来遺産に選定された「トクスリ(鷲)喫茶店」が頻繁に登場する。この喫茶店は、1970~90年代にシンチョン地区の大学生にアジトとして、そして待ち合わせ場所として人気だった。当時、シンチョンで大学生活を送った人の中でトクスリ喫茶店を知らない人はいないであろう。
未来遺産の目的は、トクスリ喫茶店のように同時代の懐かしさと感性を刺激する対象の中に文化的価値を見出し保存することである。未来遺産としての価値があり、多くの人と共有したい近現代遺産があれば、誰でも「ソウル市未来遺産ホームページ」を通じて申請することができる。自身の思い出を多くの人と共有し、自身の手で100年後の宝物を発掘することができるのだ。