寿司やラーメン、トンカツ、居酒屋、食材専門店、パン屋など、日本語で書かれた看板があちらこちらに見える。ヨンサン(龍山)区トンブイチョンドン(東部二村洞)の小さな「日本人街」の風景。
とびきり多いというわけではないが、よく見ると日本食の店が意外に多い。どの店も日本らしさを漂わせている。
イチョン(二村)駅4番出口を出て、イチョン第1洞住民センターとマンション団地の間に入った通りに「リトル・トーキョー」と呼ばれる日本人街がある。日本人街であることを示す標識などはない。周辺の高層マンションに日本人が多く住み、日本食の店が散在している程度だ。だが、ここでは日本の味と趣を堪能することができる。
その一つが日本風ラーメン店「二村拉麺亭 」。リトルトーキョーの中心部を東西に隔てるハンガン(漢江)路の西側の南端、LGプラザの地下にある。
目玉は、豚骨でだしをとった濃厚なスープが特徴の「とんこつラーメン」。ピリッとした辛さとまろやかな風味は韓国人の口にも合う。
2010年に韓国に来たあわの ひろひこさんが2015年4月に開業したラーメン店「二村拉麺亭」。メニューは、塩ラーメンや醤油ラーメン、味噌ラーメン、揚げそば、日本風ちゃんぽんなど様々で、日本人には懐かしさを、韓国人には異国の味を感じさせてくれる。値段は6千~1万2千ウォンと幅広い。
まるで日本で食べているような店の雰囲気とラーメンの味が人気を呼び、オープンからそれほど経っていないにもかかわらず多くの人が訪れている。
あわのさんは日中はラーメン、夜はすぐ隣りの「喜楽亭」という店で寿司を握っている。
ハンガン路の東側に行くと、日本式の飲食店と飲み屋がさらに多くなる。
ハンガンマンションの商店街にある「モモヤ」は、トンカツや丼物、麺類といった日本食を提供する飲食店。この店も人気が高く、多くの人が訪れる。
そこから東に向かうとレックス商店街があり、その入口に日本の食料品を販売する「モノマート」がある。規模はそれほど大きくはないが、日本現地のソースやおかず、麺類などを販売している。
他にも、ハンガン路沿いには、韓国のどこでも見られるような商店街の中に日本風の店が混ざっている。
リトルトーキョーは、1965年の韓日国交正常化を機に形成された。日本大使館が設置され、多くの日本企業が韓国に進出した。大使館の職員がイチョンドンに住むようになると、企業の駐在員もここに集まってきた。そうして日本人街が形成された。
イチョンドンで暮らすある日本人は、「以前はここに広大な砂浜があって川で泳いだり、船に乗ったりすることができた」と話す。
イチョンドンで暮らす日本人はピーク時には2千人に上った。しかし、2011年に日本人学校がサンアムドン(上岩洞)に移転するに伴い、その数はおよそ半分に減った。
お祭りなど他地域の人に見せるためのイベントを催すこともなく、日々静かに暮らしているのも日本人街の特徴だ。2~3年勤務したら本国に戻るという人が多い上に、夫は同じ職場に、子どもは同じ学校に通うという家庭が多く、普段から一緒に過ごしているため、特別なイベントを催す必要はないという。
目立ちはしないが、何気なく日本の雰囲気を感じることのできる場所。ソウルにいながら日本らしさを感じることのできる場所。それがトンブイチョンドンのリトル・トーキョーである。