ソウル市の地下鉄運営機関である「ソウルメトロ」と「ソウル特別市都市鉄道公社」が一つに統合されます。ソウル市は、2004年にバス中心に改編を行った公共交通改革から10年を迎える時期に、地下鉄もこれに匹敵する大々的な刷新を断行する必要があるとして、「地下鉄統合革新推進」構想を明らかにしました。
これはソウル市の「投資・出捐機関革新案」の一番目の実行計画です。 パク・ウォンスン(朴元淳)市長は、11月に市民の暮らしに密着した公共サービスを提供する18の投資・出捐機関を対象に、▲財政 ▲安全 ▲協治 ▲労使関係の変化、などが盛り込まれた「投資・出捐機関革新案」を発表しました。
両公社運営20年 地下鉄運営に対する客観的評価及び再整備に適期
ソウル市は当初、1994年の地下鉄5~8号線開通を前に、既存の地下鉄運営機関であるソウルメトロと競争構図を形成し、善の競争関係によって国内の地下鉄産業とサービスの発展を目指そうと「ソウル特別市都市鉄道公社」を設立しました。しかし、この約20年間、人員・業務の重複や物品の個別購入による追加コストの発生など、分離運営による効率の悪さがどんどん明るみになり、設立当初の趣旨とはかけ離れているという評価が提起され、両公社体制に関する再検討が行われました。
ソウルメトロ1キロ当たりの人員、9号線の3倍必要…運営効率に「赤信号」
統合革新に先立ち、ソウル市が現在の地下鉄1~8号線の運営について評価した結果、民間が運営する9号線に比べ、「運営効率」の側面で落ちることがわかりました。
例えば、管理人数を見ると、ソウルメトロは1駅当たりの管理人数が15人であるのに対し、9号線は7人とソウルメトロが2倍以上多く、1キロ当たりの運営人数もソウルメトロは65人、9号線は26人と約3倍が必要だと分析されました。
都市鉄道公社も、1駅当たりの管理人数が11人、1キロ当たり42人とソウルメトロと大きな違いはありませんでした。
経営難による両公社の負債は現在4兆6千億ウォンに上り、老朽化した施設物に要する再投資コストは1兆6千億ウォンで、急速な高齢化が進むなか、2009年には13%だった無賃乗車の割合が昨年30%を超え、中央政府の補填がない限り、無賃乗車による深刻な累積赤字は避けられない状況です。
パク市長は、自治体主導のパリ交通連合体(STP)の下で運営されるパリ交通公社(RATP)の事例を挙げ、今回の革新が首都圏の地下鉄や軽電鉄、市内・広域バスなど全ての手段を統合する糸口になると期待を寄せました。フランス・パリは、1949年に公共交通統合運営機関であるパリ交通公社を設立し、イル・ド・フランス地域圏の人口1100万人、年間4400万人の観光客が利用する地下鉄、バス、路面電車、高速鉄道を統合運営しています。
▲グローバル競争力の強化 ▲参加型労使関係の確立 ▲安全・サービス向上に期待
今回の革新は、人為的な人員削減やリストラといった従来の統合方式ではなく、ソウル市や両公社、労働組合など構成員間の緊密な協議を基に運営、組織、業務のあらゆる側面から思い切った刷新を断行するという原則の下に行われます。
統合革新が行われれば、地下鉄運行機関の①グローバル競争力の強化 ②参加型労使関係の確立、地下鉄運営の側面からは③安全性向上 ④サービス改善、などの効果が見込まれます。
① グローバル競争力の強化
統合革新が行われれば、第一に、MTA(ニューヨーク)やMTR(香港)など世界的な都市鉄道運営機関と規模や技術の側面で劣らないグローバル競争力の強化が期待できます。
統合されれば、ソウル市の地下鉄は、総延長300.1キロとパリ(214km)や香港(211km)よりも長くなり、一日平均の利用客も680万人と東京(622万人)、ニューヨーク(547万人)の水準になります。
機関名 | 保有車両(両) | 駅数(個) | 総延長(km) | 一日平均の
輸送人数(万人) |
ソウル地下鉄(統合) | 3,731 | 277 | 300 | 680 |
香港MTR | 1,778 | 152 | 211 | 500 |
北京地下鉄 | 3,374 | 262 | 442 | 674 |
東京メトロ | 2,773 | 179 | 195 | 622 |
パリ地下鉄
(RAPTグループ) |
3,561 | 301 | 214 | 490 |
ニューヨーク地下鉄
(MTA) |
6,344 | 468 | 368 | 547 |
「ソウルメトロ」は、国内で最も古い地下鉄運営機関で、長きにわたって積み重ねてきた運営ノウハウを、「都市鉄道公社」は総延長162キロの最大規模の運営ノウハウを有しており、両公社が統合された場合、技術とノウハウが集約されたシナジー効果を発揮することができます。公共交通複合乗換ターミナルの建設や駅周辺開発など社会的投資の機会も増え、ソウルメトロの「地下鉄安全ドア特許」や都市鉄道公社の「電動車開発」などそれぞれが保有する技術を共有し、共同研究が行われれば、運営だけでなく技術分野でも競争力を持つことができます。
また、両公社が共同で物品を購入することにより、年間数億~数十億ウォンに上るコストを削減することができます。これまでは時期や手続きの違いから、単純な装備・事務備品だけを共同購入してきましたが、両公社が統合されれば、電動車や線路整備のための重機など大型装備の共同購入が可能になり、大きな予算削減効果が期待できます。
そのために、ソウル市は人員を優先的に再編する計画です。まず、経営支援や企画、安全管理など両公社の重複業務を統合し、次に管制や駅務、乗務など運営分野、最後に技術分野の順で段階的に統合を推進する予定です。そうなれば、増員しなくても安全やサービスの改善、新規事業など、これまで人手不足で困難を抱えていた分野に効率的に職員を配置できるだけでなく、それぞれの能力に合った職務に配置を変えることで、全般的な業務効率の向上も期待できます。
②参加型労使関係の確立
第二に、労使がともに成長する参加型労使関係が確立されます。ソウル市はドイツの労使関係制度や事例をベンチマーキングすることで労働組合の経営参加を保障し、労働者の責任を強化するために「労働理事制」と「経営協議会」を導入します。労働組合側が理事を推薦し、企業の理事会に派遣する「労働理事制」と、経営に関する事案を労働組合と協議・決定する「経営協議会」は、労働者に経営に参加する機会を提供するとともに、労働者の責任と権利を同時に保障し、経営の透明性と相互信頼を高めることで、労使の葛藤を緩和する仕組みといえます。
ソウル市は、参加型労使関係の確立に向け、経営危機克服のために労使が労働時間短縮や雇用保障などに合意し、地方政府主導のプログラム支援などを通じ、10年以上の間一度のストライキもなく、グローバル企業に成長したドイツの「フォルクスワーゲン」社とヴォルフスブルク市の事例を積極的に参考にする計画です。
③安全性の向上
第三に、列車の運行と管制システムの一元化など、地下鉄の安全が大幅に強化されます。現在、両公社が別々に管理するシステムが統合管理されれば、列車内部または運行に緊急事態が発生しても、より迅速かつ一括的に対応することができるだけでなく、老朽施設の総合的な管理による合理的かつ適材適所な再投資も可能になります。
このところ安全問題が再浮上している「地下鉄換気口」の場合を例に挙げると、現在両公社が管轄区間の換気口を個別に管理しており、設置空間の活用及び安全管理が別々に行われていますが、統合されれば総合的な管理が可能になります。
④サービス改善
第四は、サービスの側面でも改善が行われます。例えば、運行機関によって異なるダイヤ編成システムを統合し、乗換の距離や最終電時刻などを考慮したダイヤ編成が可能になります。また、これまでは地下鉄が段階的に建設されていたため乗換連絡通路の管理が困難でしたが、両公社が統合されれば駅全体を考慮した総合的な連絡通路の再整備が可能となり、車椅子やベビーカーなど交通弱者に配慮した連絡通路の構築も可能になります。
2015年1月から本格的な統合革新作業に着手
ソウル市は、今回の地下鉄統合革新推進宣言とともに、「統合革新推進団(仮称)」を編成し、2015年1月から本格的に作業を開始します。
ソウル市は2014年4月、統合革新推進団を軸に経営陣や労働組合、会計・法務・労務などの専門家や市民団体、市議会など各界の意見を十分に受け入れ、社会全般のコンセンサスを基に6月頃に具体的な実行計画を策定する計画です。
2015年12月まで条例や定款など関連規定を整備し2016年に組織改編及び統合革新を完了させる計画です。
パク市長は、「これまで“手抜き”“いい加減”とネガティブに見られがちだった地下鉄運営機関が、市民に愛される企業に生まれ変われるよう、人以外は全て一掃する思い切った刷新を断行する方針だ。100年先を見据えた“グローバルNo.1ソウル地下鉄”に定着させたい」と述べています。