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希望日記

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  • 現場を訪ねて
    [朴元淳の市政日記32 ]

  • SMG 1121

    秋夕(チュソク)の前に、憂慮していた秋の台風16号が江陵(カンルン)沖へと去ったというニュースを聞きました。山崩れにより全国で2名の死者を出し、45万世帯が停電の被害を受けたという知らせも聞いています。まだ、すべての被害を把握している状態ではありません。とにかく、皆様の無事を祈っています。先日の台風15号による被害を受けた農家のために、落果を購入する運動を展開してくださった市民の方々に私は大変感動し、勇気付けられました。ソウル市が地域の苦難を分け合うことができるならば、最善を尽くしていきます。皆様もどうか現場に赴いて被害を受けた方々の力になって下さい。

    行政の力は、そしてすべての問題の解決策はすべて現場にあります。先週のことでした。11日から13日まで、実務局と参加機関の関係者、専門家、福祉館の方々、セラピストの先生、市民団体の方々と賃貸住宅団地へ行ってきました。賃貸住宅に住む方々を訪れて直接話を聞き、その方々の抱えている問題と解決策を探るためです。数日前、某日刊紙が扱った地域は訪問先から除外しました。副市長もすでに訪ねたし、賃貸住宅に住む人々の暮らしを市政の広報に利用するようなことがあってはならないと思ったからです。

    3日間の賃貸住宅政策ツアーは非公開で行いました。したがって、この文章でも訪れた地域名は明かしません。13日の最終日には、あるお宅にお邪魔して一泊しました。夜遅くまで地域住民と大事な話を交わし、朝になって帰る途中、耳に障害のあるお爺さんが廃紙を集めているのを見ました。近場で売れば40ウォンで、遠くまで売りに行くと、もう少し高く売れるそうです。だが遠くまでに行けないので、仕方なく近場で売っているとのことでした。このような事業を組織化すれば、良い社会的企業になると思います。そうなると、そのお爺さんにも少ないなりにも安定した収入が提供でき、お爺さんはプライドが持てると思います。

    韓国政府は一年間に50万世帯の住宅を建設し、そのうち10万世帯は賃貸住宅にすると公表しました。また、ソウル市の傘下の機関であり、賃貸住宅の建設を担当しているSH公社の場合、管内で330の団地と13万4千世帯を管理しています。住居福祉センターは約800ほどあります。ところが賃貸住宅に住む人々の暮らしをサポートする総括的な制度は整っていません。「ここは障害者収容所のようなものです」と話していた住民の訴えが目に焼き付いています。セラピストを訪ねて「法律で決められた月収より4万ウォンだけ多いばかりに、基礎生活受給者(生活保護対象者)から除外され、政府からの支援が切れてしまいました。いっそのこと、障害者と判定してください」と泣きながら訴えた方がいるという話を聞いて、大変申し訳なく、なんと言えば良いのか分からなくなりました。『パンと魂』という本の一節にあった「長くパンの足りない時期が続くと、魂の一部が欠落してしまう」という精神科医の言葉には非常に考えさせられました。

    だからといってお手上げというわけにはいきません。様々な問題を抱えている賃貸住宅政策、もちろん多様な意見を集めなければなりません。それは政策樹立の過程も同様です。法令の改定から個別の事例の管理まで、余りにも多くの問題が入り混じっているため、一日で解決するとは思っていません。しかし、我々が力を合わせ、現場に赴いて解決策を探れば、出口が見えてくるかも知れません。年末までには、ソウル市内の賃貸住宅団地に関する総合的な方案が整うよう、担当実務局と専門家、住民の皆様と討論し、協力して行きます。

    最も素晴らしい人材は積極的な「統長」(小さな行政区の長)であることを、この目で確認することができました。社会福祉士の皆様がびっくりするほど、知識と情熱を持っていました。それぞれの家庭の事情を良く知っていました。彼らの意見を聞き、彼らに専門的な教育と支援をすることも、住民にとって実質的な力になると思います。

    老老介護(健康な高齢者が別な高齢者をケアするマッチング型福祉事業)についても話していましたが、日本で見てみると、主婦が主に組合員である福祉生活共同組合というもがあるそうです。一種の社会的企業といえますが、一人暮らしの高齢者のお宅にお弁当を届けるとか、電球を換えてあげるとか、子供さんに電話をしてあげるとか、時間が合えば買い物にも付き合うなど、一種の共同体によるケアサービスです。このような制度を我々も応用してみることも良いかもしれません。

    食事はとくに大事な問題です。単なる食べ物の話ではありません。我々は食事から一日に必要な栄養とカロリーだけでなく、自分の存在を確認し、共同体を学んでいきます。ドイツの「境界のない食堂」やそれをモデルにした韓国の「敷居のない食堂」のようなものを賃貸住宅団地に開店するのも良いかも知れません。韓国で成功したレストランのチェーン店なら最初は公共機関と50%ずつ資金を負担し、その後は少ないけれど一定した利益が得られます。これは公共の利益にも寄与できる事業といえるでしょう。

    そして最近出会ったセラピストから聞きましたが、「wounded healer」という概念があるそうです。つまり、傷ついたことがあり、それを克服した人こそ、同じ傷を最も上手く治療できるという命題に立脚した概念です。正規の教育を通じて心理学を専攻しなくても、同じ傷を克服した人が相談に乗るということです。病気したことのある人が最良の看護ができるというのと同じ理屈です。賃貸住宅ではアルコール中毒の問題が深刻です。アルコール中毒を克服した方、そしてできれば同じ団地内に住む方を選んで少しの教育と支援を行えば、どのセラピストよりこの問題に繊細な対応ができると思います。

    また、その団地に住む体の不自由な方の一人は、昔と違って今は電動車椅子の充電の費用が国から支援されないと聞きました。その団地の住民の48%が体の不自由な方だと聞きましたが、これほど多くの方がそうであれば、電動車椅子を修理し、充電できる簡単な装置一つぐらい、団地内にあってしかるべきだと思います。

    福祉館や管理事務所の改編、改革も我々の重要な討論のテーマでした。福祉館の場合、福祉の概念を別に捉えるべきだと思いました。衣食住を提供するという従来の概念ではなく、より積極的な解決者になってほしいのです。その地域の資源をネットワークとして繋ぎ、自足のコミュニティーを作り、その中で雇用を創出してほしいのです。そのような、持続可能な暮らしのシステムを作るのが、最初は本当に本当に大変なことですが、一旦作られてしまうと、自動で回っていき、成長して行くものです。管理事務所も同様です。現在、外部に委託して管理事務を行っているそうですが、住民が自ら組織を作るのも可能でしょう。これも討論に討論を重ねて決めていかなければなりません。

    ある方は、何十億も予算の浮く提案をしてくれました。「賃貸住宅はメンテナンスのために数年に一回壁紙の張替えや設備の交換などを行います。ところが、きれいに使っている人の家はその必要がありません。そんなお宅には施設管理費用の一部を奨励金として与えるというのはどうでしょう。そうすれば室内も、団地周辺も綺麗になるのではないでしょうか」と提案してくれたのです。これはかなりソウル市の予算の節減に繋がると思いませんか。この提案をしてくださった方にも奨励金を差し上げなければなりませんね。この文章で約束することはできませんが、積極的に検討してみます。

    また、「韓国では現在、生活保護の給付金が生活保護受給資格のない低所得層の収入を超えるという逆転現象が起きている。この状態が続くと、賃貸住宅団地では生活保護を受けられない一クラス上の低所得者層が大多数を占めるようになる。永久賃貸住宅に入れる人の規準を改善してほしい。障害者と高齢者のみだから団地に活力がない、若者夫婦や一人暮らしの若者も団地に入れる方法も検討してほしい」などの要求がありました。障害者と高齢者のみだから団地に活力がない、若者夫婦や一人暮らしの若者も団地に入れる方法も検討してくれ、などの要求がありました。これらも非常に革新的で、かつ実用的な案です。それらも話し合って検討して行きます。

    賃貸住宅について、市民の皆様と直接話し合いたいことは一つや二つではありません。しかし、もうフェイスブックに書き込むには文章が長くなりすぎました。これぐらいで終わりにし、今年の年末まではお互い生活がケアできる総合的な方案を整えられるよう、努めてまいります。債務削減と賃貸住宅の建設、二兎を追う絶体絶命のピンチに立たされた実務局の関係者、参加機関の皆様、これは人間ではなく神となれ、という要求に等しいということを百も承知しています。しかし、どうしようもありません。やるしかないのです。私も最大限の努力をします。今のように、これからも最善を尽くしてください。

    3日間の賃貸住宅の現場で確認したのは、次から次へと出てくる住民からの意見、そしてお互い尊重し、討論に臨む美しい姿でした。「我々を教育してください」、「人文学講座を聞いてみたのですが、本当に感銘を受けました」、「廃校の危機に瀕した小さな学校を守ってください」のような話は、大きな感動を呼び、我々が力を合わせれば、希望が生み出せると信じさせてくれました。共同住宅は、民主主義、人権、そして何より私たちの尊厳と幸せを学んでいくのに最適の場所です。そのようなことは日常の中で成し遂げていくのであって、自治体が、中央政府ができるようなことではありません。現場で、市民の皆様が自ら、共に成し遂げるものです。

    「貧困は王様も防げない」という諺があります。たしかに貧困を防ぐことはできませんが、知恵を集め、力を合わせれば、恵まれていない人々を最低限守ることはできます。10日は「世界自殺予防の日」でした。韓国はOECD加盟国の中で自殺率1位です。しかも自殺率が急増していると聞きました。愛している、そして尊敬するソウル市民の皆様、生きつづけてください。どうか、共に生きてください。そして健康でいてください。長生きしてください。

    今日も一日、忙しく過ぎて行きました。頭と心を整理しなければならない時間です。先週は、フェイスブックの最高執行責任者(COO)であるシャリル・サンドバーグ氏に会いました。フェイスブックでマーク・ザッカーバーグ氏の次に影響力のある人物です。サンドバーグ氏はクリントン政権時代、国務長官の首席補佐官、グーグルの副社長を務めてきました。2008年、フェイスブックのCOOとなり、1年目にして赤字のフェイスブックを立て直し、現在のフェイスブックを築いた人物です。

    とても優しく、活力が漲っているという印象を受けました。しかも、プロフィールの写真より、実物の方がずっと美人でした。ラジオの「朴元淳のソウルストーリー」に出演していただきましたが、それによりSNSにコミュニケーション以上の役割、社会を革新させる道具としての役割について再考することができました。とくに、臓器寄贈の媒体となるものとしてのフェイスブック、自殺予防システムとしてリアルタイムで利用されているフェイスブックに関する説明は、ソウル市にも多くの可能性を見せてくれました。韓国のフェイスブックの利用者数は1,000万人を超えていますから。共にできることは、いくらでもあります。サンドバーグ氏と話し、最も印象に残るのは、「フェイスブックの経営者として抱いている最大の感慨は、世界市民にとって最も重要なもの、彼らが最も望むものは『真実』だ」という言葉です。

    また、「クリアであること」の重要性についても話しました。とても心に届きました。本質に触れている言葉ですね。私もまったく同感です。市政を行う長として、市政を行う上で「多様な真実の力」を忘れず、「クリアであることの底力」を育てていくよう、最善を尽くします。ありがとうございます。フェイスブックをご覧になっている方も、賃貸住宅に住む方も、ソウルの皆様、ごゆっくり安らいでください。

    悩み続ける朴元淳市長